地下街、根付かぬ避難水位 大雨時の下水道、基準設定難しく 「空振り」懸念、導入ゼロ

西日本新聞 一面 御厨 尚陽

豪雨で冠水した福岡市の博多駅前。ビルの地下で1人が亡くなった=1999年6月、福岡市博多区 拡大

豪雨で冠水した福岡市の博多駅前。ビルの地下で1人が亡くなった=1999年6月、福岡市博多区

雨水出水特別警戒水位のイメージ

 大雨の際、地下街に避難勧告を発令する基準として4年前に制度化された「雨水出水特別警戒水位」を、福岡市を含む地下街を備えた全国20都市すべてが未設定であることが国土交通省などへの取材で分かった。下水道の水位を基に避難を呼び掛ける仕組みだが、通常の下水管は容量が小さく、水位の変動が激しいため、適切な警戒水位を定めることが難しい。本格的な台風シーズンの中、各自治体は苦慮している。

 2015年7月施行の改正水防法は、雨水が下水道からあふれる「内水氾濫」で被害が想定される自治体に、警戒水位を設定するよう定めている。河川では「氾濫危険水位」として運用されているが、国交省が主眼を置くのが地下街がある20の都市(東京23区は「東京都」として1都市に数える)だ。下水道に水位計を設置した上で、利用者が地上に逃げるまでの時間を確保できる水位を設定。その水位に達した時点で「内水氾濫危険情報」を地下街管理者らに伝え、避難を促すように求めている。

 下水管は大きくても直径5、6メートル程度で、大雨時は水位が急上昇する。避難時間を確保するためには水位を低く設定する必要があるが、危険情報を頻繁に出すことになり、結果的に空振りのリスクも高くなる。水位を高めに設定すれば、避難が間に合わない。

 避難に13分かかる想定で警戒水位を検証した神戸市は「危険情報を10回出したとしても1回も浸水しない。空振りが多いと市民が信用しなくなる」。大阪市は「避難には30分必要で、最も低い水位設定となり現実的ではない」と悩む。既に下水管に水位計を設置し、降雨時に監視している横浜市も「住民の避難に役立つかどうかはっきりと分からない」と懐疑的だ。盛岡市と東京都武蔵野市は浸水被害の可能性は低いとし、警戒水位は導入しない方針という。

 地下街の浸水は13年9月に名古屋市で、同8月に京都市で発生。福岡市でも1999年6月に博多駅地下街が冠水し、ビルの地下で従業員1人が亡くなった。下水管の拡張や地下調整池の設置など、当時の1時間雨量79・5ミリに対応した施設整備を進めている福岡市の担当者は「ハード対策は限界があるだけに警戒水位は重要。悩ましい」。

 国交省の担当者は「警戒水位の設定は当初の想定以上に難しく、自治体が悩んでいることも把握している。技術的な助言をしていきたい」と語った。

 関西大の尾崎平准教授(環境工学)は「警戒水位に到達すれば直ちに避難を呼び掛けるという運用では導入は進まない。ただ、下水道の水位情報は重要で、止水板の設置など浸水対策の初動を早めることができる。柔軟な運用を考えていくべきだ」と話している。 (御厨尚陽)

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