君も「のぞかれている」 久保田 正広

西日本新聞 オピニオン面 久保田 正広

 君が長い間、深淵(しんえん)をのぞき込むならば、深淵もまた君をのぞき込む-。かの哲学者ニーチェが残した有名な言葉が最近気になっている。

 私が感じる「深淵」といえばインターネットで広がる電脳空間。毎日、多くの出来事や言葉の意味、背景を検索して調べ、さまざまな人とメールなどで情報交換する。底知れない利便性がある。

 でも、その中身がネットの側から「のぞかれている」とすれば、どうだろう。しかもそれが政府機関の仕業だとしたら…。私がこんな懸念を感じるのは先月、ジャーナリストの小笠原みどりさんの話を聞く機会があったからだ。

 元新聞記者で、カナダ在住の社会学者でもある小笠原さん。あのエドワード・スノーデン氏を取材し、その警告を著書で日本社会に発したことで知られる。スノーデン氏は米国家安全保障局(NSA、情報機関)の契約職員だったが、米政府による市民も対象にした大規模な情報監視の実態を暴露し、世界中を驚かせた。米国からは訴追され、今はロシアで亡命生活を送る。

 氏が持ち出し公表したNSAの秘密文書には、日本関係もある。これを読み込み、氏本人にもインタビューした小笠原さんが言う。「日本国内のメールや携帯電話の情報も大量無差別に米国の情報機関が収集している」。さらに「日本政府はそれを容認しているばかりか、2012年からは同じような監視活動を自ら行っている」とも。

 その舞台は意外と近くにあった。福岡県筑前町の防衛省情報本部・太刀洗通信所。「巨人のゴルフボール」と呼ばれる、大型アンテナを覆う白い球状の構造物がいくつも並んでいる。1時間に50万件の衛星通信を「のぞける」。

 米側は協力の見返りに日本当局に「エックスキースコア」というシステムを提供したとされる。ネット上の非公開情報を含めて個人の活動を洗い出せるそうで、小笠原さんは「プライバシーの侵害は明白だ」と強調していた。

 こんなことをどれだけの国民が知り、許しているだろうか。小笠原さんによれば、特定秘密保護法や「共謀罪」創設、捜査の通信傍受拡大は、国による違法な市民監視を合法化するため、となる。私たち新聞や報道機関にとって、大きな宿題だと考えている。

 ちなみに小笠原さんはメールは使うが、スマホは持たないとか。いま深淵をのぞくにはそれなりの覚悟が要る。

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 ▼くぼた・まさひろ 1986年入社。報道センター総合デスク、鹿児島総局長、記者教育担当兼紙面審査管理室長などを経て論説副委員長。

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