ペットは家族 被災地で救護 医療チーム「VMAT」全国へ広がり 福岡が先駆け 「飼い主の支えに」

西日本新聞 くらし面 国崎 万智

九州VMATの合宿訓練で災害救助犬を模擬診察する獣医師たち=7日、大分県九重町 拡大

九州VMATの合宿訓練で災害救助犬を模擬診察する獣医師たち=7日、大分県九重町

熊本地震で大きな被害を受けた熊本県益城町の避難所でペットの診察に当たる福岡VMATの隊員たち=2016年5月

 災害時に被災地に駆け付け、ペットの救護に当たる災害派遣獣医療チーム(VMAT)の結成の動きが、全国で広がっている。非常時に迅速に出動できるよう日頃から救援態勢を整えることで、家族の一員であるペットの命を救い、災害で日常を奪われた飼い主を支えることが狙いだ。全国に先駆けて福岡県獣医師会が設立した後、北九州市獣医師会も立ち上げた。九州では他に鹿児島や熊本などでも結成準備が進む。九州各地の獣医師が合同訓練を行うなど、県をまたいだ連携も深めている。

 今月7日、被災したペットの保護施設「九州災害時動物救援センター」(大分県九重町)に、福岡、長崎、熊本、宮崎、鹿児島、沖縄の獣医師約30人が集まった。昨年に続いて2回目の「九州VMAT合宿訓練」だ。参加者は、汗や息のにおいを頼りに行方不明者を捜索する災害救助犬の訓練風景を見学したり、災害時を想定して屋外で犬の模擬診察をしたりした。
 合宿に参加した鹿児島県出水市の佐々木弘一獣医師(49)は「鹿児島には火山も原発もあり災害はひとごとではない。前もって連携していれば、現地の獣医が被災して動けなくなっても近隣から応援に入りすぐに活動できる」と、広域訓練の意義を語る。同県獣医師会は、早ければ本年度中にVMATを結成する予定という。

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 VMATは、獣医師や動物看護師、動物トレーナーなど動物の専門家でつくる。災害発生直後に被災地へ派遣され、被災動物の保護や相談窓口の開設、応急診療、感染予防のためのワクチン注射などを担う。米国獣医師会が1990年代、ハリケーン被害を機に発足させたのが始まりで、人を救う災害派遣医療チーム(DMAT)の動物版だ。

 日本でVMATが産声を上げたのは2013年。福岡県行橋市の船津敏弘獣医師(62)が、11年の東日本大震災の4カ月後、原発事故で立ち入り禁止となった福島県の警戒区域にボランティアとして入ったことがきっかけだった。

 船津獣医師は、飼い主と一緒に避難できないまま取り残され、息絶えた犬や猫を目の当たりにした。保護動物の治療や予防注射といった獣医療へのニーズがあることも知った。「飼い主とペットの暮らしが一体になっている今、人命が最優先される災害時に動物を助ける専門チームが必要だ」。福岡県獣医師会に呼び掛け同会に所属する形で福岡VMATを設立した。

 16年4月、最大震度7を2度観測した熊本地震が発生。福岡VMATは熊本県獣医師会の要請を受けて前震の10日後に派遣された。チーム初の出動となった。

 車中泊や避難所生活が長期化する中、ペットにはストレスなどに起因する下痢や嘔吐(おうと)、食欲不振が次々に現れた。隊員たちは15日間、避難所を巡回し、設置したブースで診察した。協力病院が福岡県に約100カ所あり、被災したペットを一時預かるなどした。船津獣医師は「飼育動物の存在は、被災者が暮らしを建て直そうと前を向き、生きる力になる」と考えている。

 隊員を育成する認定講習会を各地で開く災害動物医療研究会(東京)によると、VMATは福岡に次いで群馬や大阪、沖縄で結成され、東北や東海地方でも設立の動きがあるという。ただ、その活動は法的根拠がなく、各獣医師会と自治体が協定を結んでいても、ほとんどの場合で派遣費用の負担や活動中の損害補償を定めていない。

 日本獣医生命科学大の羽山伸一教授(獣医学)によると、米国は動物医療従事者の災害時の活動に関する法律を06年に制定し、補償対象の活動項目を示した。「災害時の獣医師の役割を獣医療法や災害救助法に明記するなど、不可欠な社会インフラである災害獣医療を法的に位置付けるべきだ」と提言する。
 (国崎万智)

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