【ラガーマン記者が読み解くW杯】ゼロからラグビー(5)キック 攻撃譲っても、なぜ陣を取る?

西日本新聞 入江 剛史

 ラグビーワールドカップ日本大会の開幕戦(20日)で日本代表はロシア代表を破って初戦を飾った。ラグビー経験者やファン以外にも、その熱が広がったはずと思い、あまりラグビーを知らないという同僚の20代女性記者に意気揚々と感想を尋ねた。すると、経験者からすれば予想外のところでモヤモヤを抱えていることが分かった。「わざわざ自分からグラウンドの外にボールを蹴り出して、攻撃する権利を相手に渡すというのが、不思議なんですが…」

 選手からみて縦のライン「タッチライン」の外にボールが蹴り出されると「ラインアウト」で試合が再開される。両チームのフォワード(FW)がラインと垂直になるように、それぞれ列をつくる。蹴った側とは逆のチームの選手がラインの外から2列の真ん中にボールを投げ入れる。列に並んだ選手が跳び上がり、ボールを奪い合う。投入する方が、どの位置に投げるかをサインで味方に伝えるために優位となる。

 サッカーやバスケットボールでもボールが競技エリア外に出てしまうことはあるが、わざと出す選手はいない。これに対し、ラグビーでは相手にボールを渡してでも、攻撃権を譲ってでも、キックで前進を図り、陣地を取ることがある。

 「ラグビーは陣取り合戦だ」。そう経験者はよく言うが、陣地を取っても、それだけで得点が入るわけではない。ではなぜ、そんなに陣地が大切なのか。

 ラグビーは、ボールを持った選手より前ではプレーができない競技。前の選手にパスしたらスローフォワードの反則だ。キックは前に蹴れるが、蹴る前からキッカーの前方で待ち構えてボールを捕るとオフサイドの反則となる。グラウンドは縦約100メートル、横約70メートル。他競技に比べ、競技エリアの広さに対して一気に前進する手段が限られる。

 パスやランで数十メートル前進することはあっても、いつも突破できるわけではない。キックによる前方へのパスもあるが、キャッチする選手はキッカーの後方にいて、蹴ると同時に前に飛び出すから、そんなに距離は稼げないのだ。

 自陣にとどまるリスクも大きい。パスやランで展開してミスが起き、ボールを奪われれば、一気にトライされることもある。相手FWの体が大きければ、ボールを持った状態で敵味方押し合うモールで押し込まれたり、密集周辺で何度も突進されたりする。モールを崩すなどの反則を犯せば、ペナルティーゴールで3点を失ってしまう。

 そんなリスクを避けるため、自陣深くからタッチラインの外に蹴り出す「タッチキック」が選択されることがある。相手にボールを渡してでも、安全なエリアまで押し戻すためだ。

 相手陣に深く攻め入るタッチキックもある。司令塔のスタンドオフ(10番)などが相手の防御ラインの裏に低い弾道で蹴り、転がしてボールを出す。ラインアウトのボール投入は相手になるが、ボールが出た地点からのラインアウトになるので陣地は取れる。

 同じタッチキックでも、相手の反則を受けて蹴る場合は、蹴り出したチームがラインアウトにボールを投入する。攻撃権を渡さず、陣地も取れる。敵陣深くに入り込み、ラインアウトからモールでトライを狙うチームも多い。

 ラインの外に蹴り出さないキックでは、スクラムハーフ(9番)やスタンドオフなどが高く蹴り上げ、別の選手が追いかけて飛んでボールを奪い合うハイパントもある。ボールをキャッチできれば、そこから攻められる。攻撃権を渡さず、地域も奪おうとするキックだ。捕れなかったとしても20~30メートルほど前進。ボールが高く上がる間に防御ラインが整うため、ボールを捕った相手がランで仕掛けたとしても、抜かれるリスクは比較的小さい。

 日本代表は28日、強豪のアイルランド代表に挑む。アイルランドは敵陣に深く入ると、強力なFWがラインアウトからのモールや密集周辺の突進でトライを狙う。日本としては、まず、そのエリアに入れないことが重要。いかに陣取り合戦を制するかが試合の行く末を左右する。(入江剛史)

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 いりえ・つよし 福岡高でラグビーを始め、早稲田大でスクラム最前列のプロップとして公式戦出場。西日本新聞入社後は旧朝倉農業高(福岡県)、福岡高、大分東明高などでコーチを務める。ラグビーワールドカップ日本大会を1年後に控えた昨年夏、九州で唯一、キャンプ地にも試合会場にもなっていない佐賀に赴任。ただ、小学生の息子が佐賀でラグビーを始め、週末の練習が楽しみで仕方がない。録画した試合を見ながらの晩酌がほぼ日課。46歳。

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