兄が妹が…引きこもり 親亡き後、募る不安 金銭援助、責任感じ

西日本新聞 一面 山下 真

長期化する引きこもり当事者の家族の心境 拡大

長期化する引きこもり当事者の家族の心境

相談会に参加した兄弟姉妹の状況

 引きこもりが長期化し、80代の親が50代の子を養う「8050問題」が注目を集める中、引きこもり当事者の兄弟姉妹にも不安が広がっている。将来、親が老い、亡くなった後はどうするか。兄弟姉妹は全国で200万人近くいるという推計もあり、支援団体への相談は増えている。専門家は「兄弟姉妹には親と違う葛藤がある。悩みを抱え込まないで」と呼び掛ける。

 「父の介護が必要になった時、妹を誰が支えるのでしょうか」

 中部地方に住む30代男性は漏らす。県外の実家で暮らす4歳下の妹は、中学生時代のいじめを機に不登校になった。卒業後、進学や就職はせず、15年ほど自宅に引きこもり続ける。

 妹と同居する父は70代。年金とアルバイト収入で暮らすが、最近は体の痛みを訴えることも多く、いつまで働けるか分からない。家計に余裕はなく、実家の引っ越し代金数十万円は男性が立て替えた。

 「お金を返してもらえると思わない。でも、いつも頼られると困る」

 妹には強迫性障害の兆候があり、感情の浮き沈みは激しい。男性が盆正月に帰郷すると、妹に嫌がられ、家に入れないこともしばしば。互いに、将来の話をしづらい空気もある。「家族として当たり前の付き合いもできない」。男性は複雑な思いを口にした。

■推計196万人

 内閣府は3月、引きこもりの40~64歳は推計61万人と発表した。これに15~39歳を合わせると、全国の引きこもり当事者は推計115万人とされる。

 「当事者の兄弟姉妹は、全国に約196万人いる」。KHJ全国ひきこもり家族会連合会(本部・東京)のソーシャルワーカー、深谷守貞さん(49)は国勢調査も踏まえて推計する。支援団体の多くは親の集まりであり、「兄弟姉妹への支援という視点は長く見過ごされてきた」と言う。

 同会には兄弟姉妹の問い合わせが急増している。従来、月4組の相談を受け付けていたが、春以降は相談会の回数を増やすなどして月10組前後、受けるようになった。7割以上は40~50代。高齢の親を抱え、実家から離れて暮らしており、「遠方の家族をどう支えればいいか」といった声が多い。引きこもりの家族がいることで結婚が破談になったケースもあるという。

 深谷さんは「道義的な責任を感じ、苦しんでいる兄弟姉妹は少なくない。まずは自分の人生を第一に考えてほしい」と強調する。

 民法には親子や夫婦と同様、兄弟姉妹にも互いの扶養義務の規定がある。ただし、それは生活に余力がある場合の「生活扶助義務」。金銭的な援助を無理に続ければ、兄弟姉妹の生活まで破綻する恐れもある。

 深谷さんは「兄弟姉妹には『自分だけ幸せになっていいのか』と後ろめたさを感じる人もいるが、問題を背負う必要はない。できる範囲で協力し、生活困窮者自立支援の窓口など公的な支援制度につなぐことが大切だ」と語った。 (山下真)

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