【ラガーマン記者が読み解くW杯】ゼロからラグビー(6)いざアイルランド戦 「奇跡」の再来に必要なもの

西日本新聞 入江 剛史

 ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会で、日本(世界ランク9位)は28日、優勝候補の一角のアイルランド(同2位)と戦う。初戦でスコットランドを力でねじ伏せ、ノートライに封じ込めたアイルランド。その圧倒的な強さから、日本にとって厳しい戦いが予想される。前回W杯で強豪の南アフリカを倒した日本は再び「奇跡」を起こすのかー。その糸口を探る。

 アイルランドの強みの一つは屈強なフォワード(FW)。敵陣深くに入り、密集周辺をFWが徹底して突いて、力ずくでトライをもぎ取る。ラインアウトからのモール(ボールを持った状態で敵味方が押し合う)も武器。押しながら防御の薄いところに塊を巧みに動かし、前進を図る。

 日本としては自陣深くで戦う時間をできるだけ減らすことが必須。どう自陣から脱出し、陣地を取るかの戦術が重要になる。

 ただ、自陣深くから単純にタッチライン(選手からみて縦のライン)の外に蹴り出すと、アイルランドがボールを投入するラインアウトで試合再開となり、モールで攻め込まれる。真っすぐロングキックを蹴って相手に捕らせても、体が大きく、走力もある相手のフルバック(15番)やウイング(11、14番)がランで攻めてくるだろう。

 日本がとる策は、たとえ自陣深くからもスクラムハーフ(9番)などが高く蹴り上げて、別の選手が追って飛んでボールを競り合うハイパントが主になるのではないか。ボールが空中にある間に防御ラインを整えられるので、一気に抜かれるリスクが比較的少ない。ハイパントをやや長めに蹴って、時間と同時に距離を稼ぐ選択肢もあるかもしれない。

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 中盤のエリアでは、どう戦うか。日本は展開力を生かし、早いテンポでパスやランで攻め続けるのではないだろうか。ボールを保持する時間、攻撃する時間を長くすることで、相手の攻撃時間を、体力を奪っていく。

 ただ、アイルランドの個々のタックルは強い。スコットランド戦では成功率が94%に達した。

 タックラーが確実に1対1で倒し、その場に迫った別の選手が、倒れた相手選手の胸元辺りに太い腕をねじ込み、そのままボールをもぎ取る。この1、2人目の動きの精度も高くて強いからやっかいだ。2人以外はほぼ密集に入らないため、残りの選手が横に広がって防御ラインをなし、攻撃する隙がなくなる。

 日本が密集からボールを出せば、防御ラインが素早く前に出て間合いを詰めてくる。スコットランド戦を見ると、特に、後方に戻すパスや長いパスを放ると、迷いなく前に出てタックルで仕留めに来る。パスでボールを後ろに下げると、アイルランドの防御にはまりそうだ。

 スコットランドも後半に修正したように、水平に近い形でパスを受けて当たるのが有効か。フィジカルが強い姫野選手やマフィ選手らが前進を図りながら、防御ラインの乱れを生み出したい。ラインを作るアイルランドの選手は、密集や内側に視線や体が向きがちな印象がある。そうした選手の視界の外でパスを受け、入れ違うような形で突進を図るのも有効かもしれない。

 日本は、突進する選手が相手のタックルを受けて倒れた時、そこに別の選手が相手よりも早く近づき、太い腕をさし込まれる前にボールの上を体で覆うようにして攻撃権を維持する必要がある。素早い日本の展開を抑えたいアイルランドは、密集からの球出しを遅らせることに注力するだろう。タックラーが日本選手をボールごと抱え上げたり、2人目の選手が倒れた日本選手のボールをもぎ取りにいったり-。密集(接点)での2対2の攻防がカギを握る。

 この中盤のエリアで連続攻撃ができれば、アイルランドの防御ラインの裏にスペースが空くことも想定される。前の戦いでスコットランドは、ウイングの裏などのスペースにキックを落としていた。ボールを動かしながら、スクラムハーフやスタンドオフから裏のスペースに蹴り出し、敵陣深くに入りたい。そこからスクラムやラインアウトで確実にボールを獲得し、用意したプレーで一気にトライを奪う。

 スクラムは相手1番がやや下がり気味に斜めに組む傾向にある。日本の3番が真っすぐ前に出て相手1番と2番の間に「くい」を打つように差し込めれば、止まるのではないか。

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 防御はどうか。アイルランドのスクラムハーフ(9番)のマレー選手らが高く蹴り上げるハイボールをどう処理するかが重要だ。ここで不利に立つと、自陣に入り込まれてしまう。

 スコットランド戦で見られたキックは2種類。(1)高く蹴り上げながらも30~40メートルの距離を稼ぐキック(2)軽めに蹴り上げ、10~20メートル先の空中でボールを競り合うキック。ここで日本が確実に捕球できるかがポイントになる。そのためにもマレー選手らに圧力をかけて、キックの精度を落としたい。ゲームをコントロールしてきた司令塔のスタンドオフ(10番)のセクストン選手は欠場。これがどう響くかも注目だ。

 アイルランドは中盤のエリアから敵陣にかけてFWが密集周辺で突進を何度も図るだろう。日本としては1人目が低くタックルに入り、2人目が高い位置にタックルして、ボールをつながせないようにして倒したい。ここで倒しきれずに3人目の選手が必要になると、防御の人数が足りなくなり、じりじりと後退を余儀なくされる。

 さらに、ラインアウトからのモールを反則なく止められるかどうか。アイルランドのモールは、押し返す防御の圧力をかわしながら、前に出てくる。

 スコットランド戦でも、ラインアウトでボールを捕った選手と、その左右を支える選手の計3人に加え、タッチライン側に2人を最前列に置き、ラインの外に押し出そうとする防御側の力をかわしながら前進してトライを奪った。相手を包み込むように防御することが重要だろう。

 「奇跡」の再来はなるのかー。4年前を思い返す。日本が南アフリカに勝つことを、どれだけの人が予想しただろうか。アイルランド戦に向け、それぞれの奇跡のシナリオを思い描くのも面白い。日本の勝利を信じて。(入江剛史)
(随時掲載します)

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 いりえ・つよし 福岡高でラグビーを始め、早稲田大でスクラム最前列のプロップとして公式戦出場。西日本新聞入社後は勤務の傍ら、旧朝倉農業高(福岡県)、福岡高、大分東明高などでコーチを務める。ラグビーW杯日本大会を1年後に控えた昨年夏、九州で唯一、キャンプ地にも試合会場にもなっていない佐賀に赴任。ただ、小学生の息子が佐賀でラグビーを始め、週末の練習が楽しみで仕方がない。録画した試合を見ながらの晩酌がほぼ日課。46歳。

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