さすらい人の「福岡」 神屋 由紀子

西日本新聞 オピニオン面 神屋 由紀子

 映画「福岡」と聞いたらどんな映像を思い浮かべるだろうか。今年のアジアフォーカス・福岡国際映画祭の開幕を飾った映画「福岡」は、福岡タワー、豚骨ラーメンなど都市のシンボルが登場するような「ご当地映画」とは一線を画した作品だった。

 カンヌ国際映画祭受賞作などがあり、現在、北京やソウルを拠点に活動するチャン・リュル監督の新作である。

 「最初、撮影の話をいただいた時、福岡のプロモーション(宣伝)ができると舞い上がりました」。映画作りを支援する官民組織「福岡フィルムコミッション」の鳥越未来子係長は振り返る。その淡い期待は次第に裏切られていく。

 監督が映画祭に初めて招待されたのは2007年。上映作品を選定する梁木(はりき)靖弘ディレクターが作風にほれ込み、新作が出るたびに福岡へ招き、今回の映画作りに至った。

 いざ撮影となると粗筋はあっても場面設定を書き込んだ脚本がない。ロケ地の手掛かりをつかめず、鳥越さんたちは過去の作品を見て「観光名所を好まない監督」と気付き、「新しさと古さが混在したような、生活に近い場所」を探し回った。

 ロケ地の住民や道路使用を許可する警察への事前説明も一苦労だった。撮影もその場で監督が俳優やスタッフに指示するため、場所が移るたびにひたすら監督を追いかける現場だったという。

 映画は、大学時代、三角関係で疎遠になった韓国人男性2人が福岡で再会する物語になった。福岡は2人が愛した女性の故郷という設定。西中洲の居酒屋や大名の古書店、ありふれた路地を背景に、隔たりのある人々が心を通わす場面が印象に残る。

 監督は中国東北部出身で、朝鮮半島生まれの祖父を持つ朝鮮族。国家、民族間の葛藤が身に染みているのは想像に難くない。映画の舞台を中国からモンゴル、韓国と移しながら人々の所在なさや心のありようを繊細に描いてきた。

 そして福岡へ。「福岡という題を付けた映画を撮りたい」と語ってから8年余り。ようやく映画が完成した。東アジアをさすらう監督は「福岡は言葉が通じないのに親しみを感じる町」と語り、「意思の疎通」を映画の主題に据えた。葛藤を乗り越える疎通は今日的なテーマでもある。

 都市PRの一環で映画撮影を誘致する動きが日本各地で盛んだ。梁木さんら関係者は地道に交流を重ねて信頼を築き、映画完成を待ち続けた。機が熟し、監督は福岡を「心が通う町」として映し出した。地元には何よりの財産だろう。 (論説委員)

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