PTAを考える(4)改革を実践 反発を恐れずに

西日本新聞 くらし面 前田 英男 本田 彩子 金沢 皓介

PTA改革の必要性を保護者に説明するためマイケルさんが手作りした資料(写真の一部を加工しています) 拡大

PTA改革の必要性を保護者に説明するためマイケルさんが手作りした資料(写真の一部を加工しています)

あえて空気を読まない

 PTA発祥の地、米国で生まれたが意識したことはない。そんな自分が日本でPTAの在り方を論じ、改革の旗振り役を担うとは-。米シアトル出身で、2003年から福岡県で暮らす牧師ウィンターズ・マイケルさん(42)は18年、公立小学校のPTA会長になった。任意加入制、委員会の改廃、業務のスリム化。おかしいと思った慣例は次々と改善した。ただ、あえて空気を読まない「米国スタイル」を貫く姿勢には、多くの反発もあった。

 PTAとの初めての関わりは15年春。娘の通う小学校であった役員決めで自ら手を挙げた。なり手がおらず、いつまでも顔を上げない出席者。重い空気のまま刻々と過ぎる時間に耐えられず「忙しいお母さんたちよりは自分の方が余裕はある」と思い、未知の世界に飛び込んだ。

 指示されるままに動いた1年を経て、翌年は執行部に入った。そこで衝撃的な光景を見る。話し合いでクラスごとの役員が定数に達しないと、執行部メンバーは職員室にこもって欠席者に電話連絡を始めた。親の介護や乳飲み子がいるなどと辞退を申し出る保護者を説得すること2時間。「こんな電話、自分は受けたくないし、かけたくもない」。PTAへの疑問が爆発した瞬間だった。

「アメリカンスタイル」 

 PTAのおかしさを、周囲は何とも思っていないのだろうか。副会長になった17年、執行部内で話してみた。同じように疑問に思っているメンバーがいた。ネットや図書館などでPTAの歴史や全国の状況を調べ、各地で改革が取り組まれていることを知った。先進校の役員や身近な「同志」ともやりとりを重ねた。

 機が熟したのは副会長任期の中盤。最初の提案は役員決めの改廃だった。クラスごとの定員制を改め、全保護者から希望者を募る形へ。ベルマークなど「委員会」の名称も「チーム」に変え、希望者のいないチームは休止し、その年は活動を行わないことにした。提案は多くの賛同を得た。

 翌年度、会長として新たなルールの運用を始めた。結果、希望者は偏り、ベルマークチームが28人に対して、毎年20人で担ってきたバザーは4人でPTA新聞を作る広報はゼロだった。バザーは中止も持ち掛けたが「4人でもやりたい」というメンバーの希望を受け入れ、スリム化して開催し大盛況に終えた。PTA新聞は記事を書いたり、レイアウトしたりすることが苦にならないからと自らで引き取り、印刷代は従来の10分の1になった。

 その後も、多くの保護者が仕事を休むなどして参加していた年1回のボランティア活動への強制参加や、OBが主催する行事で慣例化していた現役会員の手伝いをやめた。

入退会の自由を実現

 改革への大きなうねりが形になり始めた18年5月、懸案となっていた任意加入制を打ち上げた。しかし「退会者が大量に出る」「3~5年かけてゆっくりやるべきだ」などと不安の声が相次ぎ、OBも「今まで通りでいい」と反発した。

 予想した反応だったが入退会の自由は保障されるべき権利。あえて正論を主張し続け12月、PTA総会で規約の改正を提案し、認められた。同時に年度途中にして会長を退いた。

 改革を駆け足で進めてきたことへの抵抗は根強く、「アメリカ人だから…」と思っている保護者がいることも分かっていた。「自分が会長でない方が今後の運営はスムーズに進む」と思っての決断だった。

 PTAの役員になって「不公平」という言葉をよく耳にした。「みんな忙しいのだから平等にやるべき」と言うが、それは違う。それぞれの家庭の状況は決して同じではないし、自分の大変さを他人と比較すべきではないと思っている。

 任意加入制となったマイケルさんの学校では本年度、約9割の保護者が入会した。(本田彩子)

問われる「日P」の存在意義 

 神戸市の元中学校PTA会長の今関明子さんは、子どもが通っていた学校で、校長とともに取り組んだPTA改革を「PTAのトリセツ」(世論社)として本にまとめた。

 8月にあったPTAフォーラムで講演した今関さんは、くじ引きで強制的に役員になり、泣いている保護者とその姿を見ている子どもがいる実態を報告。「子どもが不安になるようなPTAなら、なくしたらいいと思った」と話した。

 一方で、学校と保護者の接点であるPTAを完全になくすことへの不安も打ち明けた。「保護者には、学校のことにしっかり関われる人から、自分のことで精いっぱいな人もいる。子育てに不安な人、苦しい人もいる。(PTAは)そうした人たちをうまくまとめることができる組織でもある」と可能性に言及した。

 実践した改革の一つで、学校運営に関してPTA役員が学校側に直接意見を述べる場を設けたところ、押し付け合いだった本部役員が立候補で決まるようになったという。工夫しながら保護者の関与を促し、PTA不要論を覆す「逆転の発想」ともいえる。

 さまざまな課題を抱えるPTA。その改革は広がりを見せているとはいえない。全国約800万人の保護者、教師でつくる日本PTA全国協議会(日P)の佐藤秀行会長は、フォーラムと同じ日に神戸市であった大会で「事業見直しなど少しでも正しい方向に持っていきたい」と話し、調査研究委員会で入退会問題に取り組むことを明言した。価値観が多様化する時代にあって、PTAがどういった姿を目指すのか。上部組織としての存在意義も、また問われている。(前田英男)

◆読者から…さまざまな意見

 「役員を必ず引き受けることが義務になっていた」と振り返る福岡県内の40代女性は転勤族。「当たり前だが、引っ越すと実績がノーカウントになる」と苦悩する。「純粋に子どもたちのために働きたい親もたくさんいると思うが、参加を縛ることで楽しくできず不満ばかりになる。拍手で承認するだけの総会もやらない方がましだ」

 ある読者は「ボランティアでやる考えの人はほとんどいない。(イベント支援などは)業者に頼み、会費が高くなっても誰も文句は言わないのでは」と手厳しい。「専業主婦でないとPTAの実質業務ができない。教育に国家予算が潤沢に使われていない背景もある」との意見もあった。

 各学校のPTAには、日本PTA全国協議会を頂点に都道府県や市町村単位の上部組織がある。「優れた活動をした学校への表彰も単なる順番制であきれた」「自分の学校だけ組織を抜けることは難しい。何重にも連なる構造がまず問題だ」。ピラミッド型の構造への疑問も相次いだ。

 一方、組織の必要性や活動の意義を訴える声も一部にあった。PTA会長を務めた保護者は「マイナス面ばかり報道されるが、PTA活動や地域との連携がなければ、子どもの環境がどうなるか。親ができることから協力する助け合いの精神が大切だ」と強調。関西地方で4人の子どもを育てる女性(43)は「PTAを面倒くさいと考える人も多いが情報を共有し協力していく組織で、いがみ合うものではない」と訴えた。

 PTA入退会の意思確認をする小学校に通う保護者は「加入しなくても児童が差別されることはない」と説明。上部組織を脱退したことで役員の負担が抑えられ、学校行事の手伝いはボランティアを個別に募集しているという。保護者は言う。「頑張りたい人はボランティアに取り組むし、子育てに集中したい人は加入しなくてもいい。ストレスになる“強制のPTA”とは180度考え方が違う」(金沢皓介)

PR

PR

注目のテーマ