処理水放出、遠い「安心」 原田・前環境相発言を読み解く

西日本新聞 総合面 湯之前 八州

 「思い切って(海洋に)放出するほかに選択はない」。東京電力福島第1原発で増え続ける処理水について、原田義昭前環境相=衆院福岡5区=がこう問題提起し、論議を呼んでいる。科学的根拠に基づくとされる「安全」と、それでもなお多くの人々が素直には胸に抱けない「安心」-。今回、あらためて浮き彫りになったのは、このギャップを埋めるのが簡単ではないという現実だ。

 原田氏の発言は、環境相退任前日の9月10日に飛び出した。放射性物質トリチウムを含む処理水の海洋放出を主張し、「それによって残るであろう風評被害や漁業者の苦労は、国を挙げて補完することが極めて大切だ」と強調した。

 処理水は今も毎日170トンずつ増え、現在計116万トンがタンク約千基に保管されている。東京電力は2022年夏ごろには満杯になり、原発の廃炉作業にも支障が出る恐れがあるとしている。国は有識者でつくる小委員会を設置し、気体にして大気中に放つ「水蒸気放出」や「地層への注入」なども選択肢に処分方法を話し合っているが、答えは出ていない。

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 専門家である原子力規制委員会の見解は、トリチウムの人体への影響は極めて小さいので心配なく、海洋放出が「処理水処分の現実的、唯一の選択肢」(更田豊志委員長)というものだ。原田氏は、この「科学性」に依拠して声を上げた。

 誰もが触れたがらないことを、勇気を出して世に問うたと受け止めたのは、復興相経験者の自民党議員。「フクシマの復興を真に加速させる意味で、(原田氏の発言が)放出を決断するきっかけになればいい」。松井一郎大阪市長と吉村洋文大阪府知事も、「環境被害がないものは国全体で処理すべきだ」と同調。大阪湾で、一部の処理水放出を受け入れても構わないと踏み込んだ。

 これに対し、福島で日々生きる住民からは、海洋放出は水産物などへの風評被害を招くとして「容認できない」との反発が出ている。

 相馬双葉漁協(福島県)の立谷寛治組合長は「『安全』を訴えても、どうしても信じてもらえない消費者が一定数はいる。原発事故後に試験操業でこつこつやってきて、風評被害がやっと徐々に減っているのに、漁師の努力に水を差すつもりか」と憤る。昨夏には、処理水中にトリチウム以外の放射性物質が残留していることも判明。漠とした不安の影を濃くした。

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 国の小委員会メンバーでもある東京大大学院の関谷直也准教授(災害情報論)は「科学的に安全だからといって、社会的な課題が解決していないのに放出を急ぐとすれば早計だ」と指摘。小委員会は、風評被害との向き合い方もテーマに検討を深めている。原田氏の後任の小泉進次郎環境相も福島を訪れ漁業関係者に陳謝し、こう述べた。「世の中に一石を投じる必要性は分かるが、簡単に石は投げられない」

 では、どうすれば人々の「安心」を獲得して「安全」に近づけていけるのか-。処理水はたまり続ける。解決策はまだ見えない。 (湯之前八州)

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