スタンドはきれいにしても

西日本新聞 オピニオン面

 スポーツの国際試合などがあると度々報じられるのが、スタジアムに集まった日本人がスタンドのごみを自分たちで拾い集め、持ち帰る姿である。海外メディアも日本人ファンの行動に感心しているという。

 「公共の場を清潔に保つ」というのは日本人らしいモラルだ。私自身も地下鉄の車内やホームに誰かが捨てた空き缶が落ちていれば、さっさと拾ってごみ箱に入れる習慣がある。

 今や「スタンドのごみ片付け」は「世界が称賛する日本」の定番ネタになった感がある。私もこうした報道を受け、単純に「日本人すごい」と喜んでいた。

 しかし、昨今の国際的な騒動をウオッチして気がついたが、ごみに関して言えば日本はそう褒められた立場でもなさそうなのだ。

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 ここ数年、日本や欧米の先進国が途上国にプラスチックごみを大量に輸出してきたひずみがあらわになり、国際問題化している。

 受け入れる国でプラごみがあふれ、海に流れるなど環境汚染が深刻化したのだ。リサイクル用のプラごみを輸出する商行為というのが建前だが、再利用できないごみも含まれていたのが実情で、実質的には先進国から途上国へごみを押し付ける構図だった。

 これに途上国側が反乱を起こした。まず中国が2017年に輸入停止を発表。東南アジア諸国も次々に規制を強化している。マレーシアはプラごみを輸出元に送り返すと宣言。フィリピンのドゥテルテ大統領も「わが国はごみ捨て場ではない」と怒り心頭らしい。

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 実は日本は世界有数のプラごみ輸出大国である。環境省の資料によると、16年には約150万トンを海外に輸出していた。これが今、相手国の規制強化のあおりで日本国内にプラごみが滞留し、慌てている。

 6月に大阪で開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議では、議長を務めた安倍晋三首相が最後に記者会見した。私も現場で取材したが、東南アジアの記者が「日本の海洋プラごみ対処は遅れており、ごみを発展途上国に輸出している。どうするのか」と質問したのが印象的だった。日本への厳しい視線がうかがえた。

 アジアの途上国側から見れば、日本は「スタジアムでせっせとごみを持ち帰る一方で、そのごみを自分では処理せず、よそに押し付けてきた国」ということになる。「モラルが高い」などと自画自賛していた私は、相当な能天気だったというほかない。

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 誤解しないでほしいが、「日本人はダメだ」と言っているのではない。私はそういうことをわざわざ言いたがるタイプではない。

 残念なのは、個々の日本人が持つ健全なモラルが、国レベルの産業政策という大きな話になると生かされない、むしろ逆のことをしている-という点なのだ。

 ごみは自分のところで始末する。それができないほどのごみは出さないようにする-という市民的なモラルを基本にした産業政策はできないのだろうか。使い捨てプラ製品の使用禁止を打ち出した欧州やカナダに比べ、日本はプラごみ規制で大きく後れを取る。

 最近、エコバッグを使うようになった。小さ過ぎる一歩だが、「自画自賛」よりは前向きなはずだ。

 (特別論説委員)

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