「10年たったら」の妙味 水江 浩文

西日本新聞 オピニオン面 水江 浩文

 講和の条約 吉田で暮れて
 日ソ協定 鳩山さんで
 今じゃ佐藤さんで沖縄返還
 10年たったら竹下さん
 

   ◇   ◇

 故竹下登元首相が、宴席で興に乗ると披露したズンドコ節である。

 この有名な替え歌にも変形バージョンがあることを岡崎守恭(もりやす)著「自民党秘史」で知った。1985年1月24日、田中派の新年会で久しぶりに歌った竹下氏は「今じゃ佐藤さんで」のくだりを、こう変えたという。

 今じゃ角さんで列島改造

 実はこの前日に築地の料亭で「創政会(竹下派)」の旗揚げを目指す極秘の準備会が開かれていた。

 替え歌で田中角栄氏を持ち上げたのは竹下氏一流の「気配り」か。と思いきや、「そうではなく、『田中から竹下へ』への決意をにじませたのである」と岡崎氏は喝破している。生々しい権力闘争の一場面が思い浮かぶ。

 私はかつて旧竹下派の幹部から、こんな話を聞いたことがある。「十年一昔と言うけど」とこの元幹部は言った。「この戯歌(ざれうた)の妙味は10年たったら-の節回しにある」

 10年と耳にして、まだそんな先の話か-と聞き流す人もいれば、10年先を見越して動くという宣言だ-と身構える人もいる。この独特の政治感覚が竹下流なのだという。

 「一寸先は闇」の政界にあって、10年という時間軸で物事を考える作法にいたく感心したことを思い出す。

 政治の現在地も10年単位でさかのぼると、いささか興味深い。10年前の2009年は政権交代で民主党政権が発足した。安倍晋三首相に言わせれば「悪夢」の始まりだ。その10年前の1999年には自民・自由・公明の3党が連立政権の樹立で合意した。今に続く長期政権を支える「自公」連立の起点である。

 さらに10年前の89年はリクルート事件で竹下首相が退陣に追い込まれた。それは、政権交代が可能な二大政党制を志向する「平成の政治改革」の号砲でもあった。

    ◇   ◇

 さて、安倍さんは8月に通算の首相在任日数で佐藤栄作元首相を抜いた。来月には桂太郎元首相を超え、憲政史上最長の称号を手に入れる。こうなると「講和条約」「日ソ協定」「沖縄返還」のような政治的レガシー(遺産)が欲しくなるのは人情というべきか。

 もし、安倍さんの悲願が成就するなら「今じゃ安倍さんで憲法改正」の新バージョンも思い浮かぶけど、果たしてそううまくいきますか。

 トコ ズンドコ ズンドコ…。 (論説副委員長)

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