抑留者の遺骨 国は収集の責務を果たせ

西日本新聞 オピニオン面

 国策の戦争で亡くなった犠牲者とその遺族に対して、あまりにも不誠実な対応である。事実関係の公表を避けてきた姿勢にも強い疑問を禁じ得ない。

 国の戦没者遺骨収集事業で、ロシアから持ち帰ったシベリア抑留者の遺骨計597人分が日本人のものでない可能性があることが新たに判明した。

 そもそも遺骨の取り違えなどあってはならないのに、数の多さに驚く。他の事例もありはしないかという疑念も浮かぶ。

 なぜ、こんな失態が起きたのか。徹底的な事実関係の究明と再発防止策の実施が急務であることは言うまでもない。

 厚生労働省によれば、取り違えた可能性のある遺骨は1999年から2014年にかけて、ロシアのイルクーツク州やハバロフスク地方など9カ所の埋葬地で発掘された。現地の資料や関係者の証言などを基に「日本人の可能性が高い」と判断し、収集したという。

 ところが、DNA型鑑定結果などを確認する専門家の鑑定人会議で、05年5月から今年3月にかけて「日本人でない可能性がある」と鑑定された。

 14年も前から取り違えの疑いを専門家から指摘されていたにもかかわらず、厚労省はその事実を伏せていた。ロシア側にも伝えていなかったというから怠慢による「放置」、あるいは意図的な「隠蔽(いんぺい)」と疑われても仕方あるまい。

 この問題は今年7月、シベリアのザバイカル地方で収集した16人分の遺骨について「日本人のものではない」「日本人でない可能性が高い」とするDNA型鑑定の結果が出ていた-と報道され、厚労省が鑑定人会議の議事録を精査するなど調査に乗り出していた。

 長年公表しなかった理由について、厚労省は「ロシアでの遺骨収集に影響が出る懸念があった」などとしているが、釈然としない。酷寒と重労働、飢えと傷病を耐え忍んだシベリア抑留者の苦難と無念を思えば、もっと誠実な取り組みができなかったのかと悔やまれる。

 政府は第2次世界大戦中に海外で死亡した戦没者の遺骨収集を1952年から始めた。国内外の戦地で亡くなった戦没者は約240万人で、このうち約127万6千人分の遺骨を収集したが、未帰還の遺骨は約112万4千人分に及ぶ。

 戦没者遺族の高齢化は進み、海外で戦没者を埋葬した土地でも記録の散逸や記憶の風化が避けられない。遺骨収集は時間との闘いでもある。3年前に議員立法で成立した戦没者遺骨収集推進法は遺骨収集を初めて「国の責務」と定めた。国は誠実に責務を果たすべきである。

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