新たな交流のツールに 中村萬里氏

西日本新聞

筑紫女学園大文学部教授 中村 萬里氏 拡大

筑紫女学園大文学部教授 中村 萬里氏

◆変わる方言

 方言は、生え抜きの人(その土地で生まれて、そこで生活をしている人)がくつろいだ場面で話す言葉である。また、地域が変われば文化や食べ物が変わるように地域差も表す。その方言に新たな変化が起きている。

 ひとつは「新方言」(ネオ方言)である。例えば、筑前方言の「よかと?」を「いいと?」、また「おらんやった」を「おらんかった」と言う人が増えている。これらは、方言「よかと?」が共通語「いいの?」、また方言「おらんやった」が共通語「いなかった」と結びついたものである。昔からある方言が共通語と結びついて変容した新方言は、これからますます増えていくと思われる。

 もうひとつは「方言コスプレ」の出現である。これは衣服を着替えるように方言を使うことを意味する。

 一般的に、公の場や初対面の人とは共通語で話し、家族や友人とは方言で話すなど、「ハレ(晴)」(公的な改まった場面)と「ケ(褻)」(私的な場面)で使い分けを行っている。ところが、最近、その地域の生え抜きの人、すなわち方言ネーティブではないのに他の地域の方言を使い、方言コスプレで自分を表現する若者が増えている。例えば、福岡(博多)出身ではないのに「ばってんがくさ」と言ったり、高知出身ではないのに「いかんぜよ」と言ったり。これは方言ネーティブを揶揄(やゆ)しているのではなく、その土地の出身者であるかのように演じて、会話の中に特異なニュアンスを表現している。

 方言とは無縁のはずの東京の女子高校生が「ちかっぱ(とても=福岡の新方言)めんこい(かわいい=東北方言)」など、各地の方言を織り交ぜて使う。方言コスプレされた言葉がクッション的な役割を果たして、その場の会話を和ませているとも言える。

 以前は、方言と共通語の使い分けができれば日常生活に支障はなかったが、現在は生活の場が多様になっている。家族との会話、友人との会話、また会員制交流サイト(SNS)での書き込みなど場の違いに応じて、異なる自分を演じる必要がある。対人関係をよくしたり、場を和ませたり、表現に幅を持たせる方言コスプレは、便利で必要なコミュニケーションツールなのである。

 中村 萬里(なかむら・まさと)筑紫女学園大文学部教授 1954年生まれ、福岡県糸島市出身。九州大大学院修了。専門は日本方言学、コミュニケーション学。著書は「即訳!ふくおか方言集」など。KBCラジオ「中村しぇんしぇ~の好いと~と糸島」のパーソナリティーも務める。

PR

PR

注目のテーマ