10円焼き鳥 譲れぬ 大牟田の老舗「元禄」、24歳3代目 34年維持、父の遺志胸に

西日本新聞 社会面 御厨 尚陽

昔ながらのしちりんで「10円焼き鳥」を焼く吉岡凌さん(左)=福岡県大牟田市 拡大

昔ながらのしちりんで「10円焼き鳥」を焼く吉岡凌さん(左)=福岡県大牟田市

昔ながらのしちりんで「10円焼き鳥」を焼く吉岡凌さん(左)=福岡県大牟田市

 消費税が上がり、少々店にしわ寄せが来ても、これだけは譲れない。福岡県大牟田市の焼き鳥店「元禄」の「10円焼き鳥」。炭鉱で栄えた土地で約70年間営業してきた老舗は「安く飲める労働者のための店」という理念を貫く。1989年の消費税導入以降も、焼き鳥はずっと「1本10円」。3代目吉岡凌さん(24)は、57歳で亡くなった父の正二さんの遺言を胸に庶民の味を守り続ける。「10円焼き鳥だけは、値段を上げるな」-。

 開店は午後4時。夜が更けるにつれ、店内は酔客でにぎわう。皮と砂ずりの2種類の焼き鳥は、凌さんがしちりんで丁寧に焼く。客の腹具合、酒の進み具合を見極めながら、一皿5~6本ずつを提供していくという独特のスタイルだ。仕込みは1週間で約1800本。「10円焼き鳥はうちの金看板。赤字だけど、その分、酒をたくさん飲んでもらえれば大丈夫」と笑う。

 元禄は、大手企業の労組委員長だった亡き祖父鑑正(かんせい)さんが職場を追われ、50年に開業した。戦後、石炭が増産された時代。三池炭鉱の三川鉱にほど近い店では、炭鉱マンが1本5円の焼き鳥をさかなにぐいぐい飲んだ。85年に10円に値上げしてからは、消費税が導入されても「価格より客足で勝負」と維持してきた。

      ◇◇ 

 高校卒業後は地元企業に就職するつもりだったが、店を手伝うようになって考えが変わった。現役時代の話に花を咲かせる元炭鉱マン、年金暮らしの高齢者、親子2代で通う客…。「みんなにとっての居場所。守り続けなきゃ」。そんな自覚が芽生え始めた。

 2015年8月。末期のがんと宣告された父は「店を閉める」と言い出した。自身も17歳で店を背負い、苦労を重ねた父の親心だった。凌さんは「自分が店を継ぐ」と譲らなかった。約1カ月、思いをぶつけ合い、ついに父が折れた。「凌が頑張るなら、俺も死ぬまで頑張る」。抗がん剤治療の傍ら、付きっきりで5カ月、秘伝のたれ作りを教わった。16年4月。亡くなる前の日には、10円焼き鳥を守るよう思いを託された。

 それから3年半。30年来の常連客(54)も「今や立派な3代目。味も値段も変わらず、気持ちよく酔える」と太鼓判を押す。閉山で基幹産業を失った大牟田は最盛期の6割まで人口が減った。今回の消費税増税前には酒類の仕入れ値も上がった。それでもメニューの工夫で若者客の開拓に力を入れ、巻き返しを図る。「これからも20年、30年と続けるために、工夫を凝らしていきたい」 (御厨尚陽)

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