【北朝鮮と日韓対立】 姜 尚中さん

西日本新聞 オピニオン面

姜尚中(カン・サンジュン)さん=熊本県立劇場館長 拡大

姜尚中(カン・サンジュン)さん=熊本県立劇場館長

◆核問題打開を最優先に

 島根県沖の日本の排他的経済水域(EEZ)に落下したとみられる北朝鮮の新型ミサイルは、改めて北朝鮮の挑発を印象付けた。しかも北朝鮮はこれを潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の「北極星3」と発表し、日韓の防空体制に大きな不安の波紋を広げている。にもかかわらず、日韓の当局者の対応はちぐはぐな印象が否めない。

 韓国は地の利を生かし、いち早く1発のSLBMらしき飛翔(ひしょう)体が発射されたと発表。一方で、軍事情報包括保護協定(GSOMIA=ジーソミア)の自然延長を退けながら、日本に情報提供を求めている。日本は初期の段階で、2発の弾道ミサイルが発射されたと発表したが、後にそれを否定。1発が二つに分離して落下した可能性があると訂正し、SLBMかどうかの判定に時間をかけてしまった。

 このような経緯は、発射地点至近の韓国と着弾地点側の日本との間には相互補完的な情報共有体制が成り立つはずなのに、それがぎくしゃくしたまま、結果として北朝鮮に付け入る隙を与えてしまったことを物語る。日韓の反目と葛藤は、北朝鮮に格好の条件を提供したことになる。

    ◆   ◆

 5日行われた米朝実務協議は、北朝鮮側の発表を見る限り、暗礁に乗り上げたかのようだ。米国などの一部メディアは、北朝鮮の繊維や石炭輸出への期限付きの制裁解除と、それに対応する寧辺の核施設の閉鎖、ウラン濃縮の停止案が話し合われると予測していた。協議後、米国側は何らかの「新しい提案」に言及しているが、北朝鮮は認めておらず、2週間後の協議再開の可能性も予断を許さない。

 実務協議が頓挫ということになれば、米朝交渉は膠着(こうちゃく)したまま、北朝鮮の短距離ミサイル実験などの挑発が繰り返される可能性が否定できない。米下院での大統領弾劾の可能性で窮地に立ちつつあるトランプ大統領としてはジレンマを抱え込むことになる。

 ミサイル発射に対抗しなければ、国内だけでなく同盟国や国際社会からも非難される。一方、北朝鮮に強く出れば、首の皮一枚でつながっている米朝交渉のモラトリアムが終わりを迎え、平昌オリンピック以前の危機的な状況へと後戻りしかねない。それはトランプ政権の北朝鮮政策の事実上の破綻を意味し、外交的な手腕が根底から問われることになる。大統領選を控え、それだけは避けたいはずだ。

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 北朝鮮はジレンマを見透かし、タイムリミットを年内に絞りつつ、さまざまな形で揺さぶりをかけてくるのではないか。トランプ政権のあいまい政策が続く限り、日本は圧力路線に復帰することは難しく、安倍政権もトランプ大統領に歩調を合わせて、条件なしの対話を呼びかけることになると思われる。一方、側近の法相周辺のスキャンダルで国論が分かれてしまった感のある韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権は、米朝実務協議の頓挫でますます窮地に追い込まれることになり、これまで以上に北朝鮮への融和的な政策を取らざるを得なくなる。

 こうした北朝鮮をめぐる米日韓のチグハグな対応を立て直し、北朝鮮の核問題を解決するとともに、朝鮮半島の緊張緩和と平和的秩序の構築を図るために、もう一度、振り出しに戻って再考する必要があるのかもしれない。具体的には、中国、ロシアの協力を得ながら、6カ国協議の場で解決を図る方法が考えられる。いくつかの基本原則が合意を得ており、2国間の交渉を補完する枠組みとして活用すべきではないか。同時に事態が混沌(こんとん)とする中、日韓は不毛な対立に終止符を打ち、喫緊の北朝鮮の核問題の解決に向け、速やかに協力を図るべきである。
 
 【略歴】1950年、熊本市生まれ。早稲田大大学院博士課程修了後、ドイツ留学。国際基督教大准教授、東大大学院情報学環教授、聖学院大学長など歴任。2018年4月から鎮西学院院長。専攻は政治学、政治思想史。最新刊は「母の教え」。

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