奔放であれ 工藤公康 安枝 新悟

西日本新聞 オピニオン面 安枝 新悟

 かつては奔放を絵に描いたような男だった。プロ野球、福岡ソフトバンク工藤公康監督の現役デビューは1982年。入団したばかりの西武で開幕1軍入りを果たすと、左腕からの小気味いい投球でいきなり頭角を現した。

 怖いもの知らずの18歳。やんちゃだった。ピンチで投手コーチがマウンドに向かおうとすれば、来るなとばかりに手で追い払った。「だって、低めに投げろとか、長打を警戒しろとか言うだけ。分かってるっつーの」。芸能人ばりの流行服に身を包み、試合後のお立ち台では先輩選手とキスを交わすなど、自由過ぎる言動で球界の常識を覆した。86年には新語・流行語大賞の金賞「新人類」代表として授賞式にも出席した。

 「天井ゴン」と呼ばれた当時の名人芸は今も語り継がれる。ベンチでの囲み取材を適当に受け流し、座ったまま左の親指と中指を勢いよくはじくと、真上に飛び出したボールが天井を鳴らしたという。絶妙の加減で繰り返しゴン、ゴン、ゴンと。あっけにとられた記者たちは「天才の妙技というか、手品を見ているようだった」と述懐する。

 56歳で指揮を執る現在、選手を君(くん)付けで呼ぶ監督としてすっかり角が取れたイメージが定着した。昨季まで就任4年で3度の日本一。通算224勝を挙げて優勝請負人の異名を取った選手時代と合わせ、計14度の日本一は森祇晶(まさあき)氏の17度、川上哲治氏の15度に次ぐ歴代3位だ。

 9日、リーグ王者の古巣西武に挑むクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージが幕を開ける。昨季はリーグ2位から逆転で頂点に立ったが、その再現を狙う今季は強力打線の相手もさらに手ごわく変貌している。

 人格者で知られる王貞治球団会長はユニホームを着ると別人のスイッチが入った。前身福岡ダイエーからの監督時代、采配のまずさを指摘されても「世界中の誰よりも勝ちたい、このチームを勝たせたいと思っているのは俺なんだ。俺が出すサインが最良に決まっている」と一蹴。天下無双の声を響かせた。

 あえて言えば、シーズン終盤の工藤采配はコーチの進言や選手に気を使い過ぎ、真骨頂の勝負勘が少々鈍っているようにも映った。若き日に手品のごとき神業を披露した原点の球場ベンチ、そこで振るタクトに本来の自我はよみがえるか。見たいのは、血湧き肉躍る奔放の発露である。

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 ▼やすえだ・しんご 1965年、北九州市生まれ。スポーツ報道を主に東京支社、運動部長を経てスポーツ本部長。テレビ西日本「CUBE」に出演中。

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