女神・コイズミを愛した少年たちを描いた一気読み必至の青春小説

西日本新聞

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『オートリバース』 高崎卓馬 著

 空前のアイドルブームに沸いた1980年代、ハチマキに法被(はっぴ)姿でアイドルを応援する「親衛隊」と呼ばれる若者たちがいた。本作は、親衛隊の少年たちを主人公に、彼らが「コイズミ」こと小泉今日子に、その情熱をすべて捧げようとする様を描いた青春物語だ。

 福岡から千葉に引っ越してきた橋本直(はしもとなお)と、親が離婚して再婚した高階良彦(たかしなよしひこ)。学校にも家にもはまることができずくすぶる2人の前に、ある日16歳の女の子が現れる。彼らが女神と呼ぶことになる小泉今日子だ。女神の存在が、うだつの上がらない彼らの毎日を一新する。やがて2人は親衛隊の存在を知り、今日子隊の一員になる。コールの練習、葉書や電リク、事務所や局ができない警備、親衛隊活動費のためのカンパ。「ここはさ、努力が報われる場所なんだ」という言葉を胸に、小泉今日子を1位にするために、親衛隊の活動に身も心も費やしていく。

 80年代の熱情と少年たちの恋、友情、憧れを織り込んだ本作には、肌をヒリヒリと焼くような危うさがある。どれだけ好きか、どれだけ熱いか、どれだけ詳しいか、語り合う2人の様子はほほ笑ましく、うらやましささえ感じる。人を好きになる気持ちは止められないものだ。激しく移ろう彼らの喜怒哀楽を、そのひと時を、小泉今日子も共有したのだろうか。

 著者が小泉今日子本人から親衛隊との交流の話を聞き、また多くの文献、取材をもとに創作したフィクションなのだが、事実との境目が分からなくなるような感覚に陥る。80年代はこうだったと肌で感じられる一冊だ。

「ザ・ベストテン」のランキングが挿絵のように添えられているのもよい。読みながら思わず懐かしいメロディを口ずさむ読者もいることだろう。当時を知らない世代も、ぜひタイムトリップしてほしい。自分とは違う価値観を持つ他人がいること、自分の好きな世界だけがすべてではないこと、アイドルの孤独などさまざまなことを体感できるはずだ。

出版社:中央公論新社
書名:オートリバース
著者名:高崎卓馬
定価(税込):1,540円
税別価格:1,400円
リンク先:http://www.chuko.co.jp/special/autoreverse/

西日本新聞 読書案内編集部

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