科学的データによって浮かび上がる、家族を取り巻く社会のリアル

西日本新聞

『「家族の幸せ」の経済学』 山口慎太郎 著 拡大

『「家族の幸せ」の経済学』 山口慎太郎 著

 結婚を決めるとき、子どもが生まれるときに、不幸を願う人はいない。それぞれ理想とする形は違っても、誰しも幸せな家族を築きたいと思うはずだ。ところが私たちが普段、なかば常識として目や耳にするアドバイス――「赤ちゃんは母乳で育てたほうが知能や健康の発達に良い」「子どもは3歳までは母親がつきっきりで育てるべき」など――は、本書によると、全く科学的根拠のない、デタラメといってもいい代物なのである。

 経済学者である著者が、結婚から出産、子育て、離婚まで、家族にまつわる国内外の調査・研究データを紹介しつつ、現代における家族のあり方や、それを取り巻く社会の課題について考察した一冊。特徴はなんといっても、その厳密さだろう。「スペインでは離婚法改革によって離婚のハードルを下げた結果、夫から妻への暴力が30%減少した」「ノルウェーの調査では、父親が育休を取得した家庭では子どもが16歳になったときの偏差値が1ほど上がった」というように、主張の一つひとつがデータによって裏付けられているのだ。
 
 とはいえ本書は、ビッグデータという言葉が喧伝されるようになって以来よく見かける、科学的根拠によって世の常識を暴くこと自体を目的とした類の本ではない。先に挙げた母乳育児にせよ、母親による幼年期の育児にせよ、誤りと同時に効用についても公平に例証されている。そこで著者が問題としているのは、そうした常識が覆い隠す、保育所不足や、それがもたらす待機児童問題といった現実なのである。本書で紹介されている数々の科学的データが目的とすること、それは現代の日本の家族の幸せを阻む要因を顕在化させ、現実を変えてゆくことなのだ。そしてその要因となっているのが、旧来の常識や価値観であり、現実と乖離(かいり)した社会制度なのである。

 数年前、待機児童問題を訴える「保育園落ちた、日本死ね」と書かれた匿名ブログが話題になったことを覚えている方は多いだろう。国会審議でも採り上げられデモにまで発展したが、しかし、現在も状況は改善されていない。首相にいたっては「匿名である以上、それ(ブログの内容)が本当かどうか」と述べて相手にすらしなかった。では本書ならどうか。

 本書の厳密な主張や提言が多くの人の目に触れ、家族を取り巻く社会や制度について考えるきっかけになることを願う。

 

出版社:光文社
書名:「家族の幸せ」の経済学
著者名:山口慎太郎
定価(税込):902円
税別価格:820円
リンク先:https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334044220

西日本新聞 読書案内編集部

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