対中戦略を問う(上)神田外語大教授 興梠一郎氏 安全保障今こそ毅然と

西日本新聞 国際面 塩入 雄一郎

興梠一郎・神田外語大教授 拡大

興梠一郎・神田外語大教授

 -現在の日中関係をどう見ているか。

 「表面上は良くなっているが、これは中国側の事情が大きい。米国との貿易戦争が中国経済に響いており、そのため日本に近づいている。安全保障といった構造的な問題は解消されておらず、その点はむしろ米中対立の深まりで難しくなっている」

 -米中対立がどのように日中関係を難しくしているのか。

 「米中はただの貿易戦争ではない。米国は各国に中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)の製品を使わないよう求めるなど、両国は情報、技術などあらゆる局面で対立している。日本は安全保障面では米国側にいるため、例えばファーウェイを使うなど米国抜きに独自に中国に対応することができない」

 -日本は中国との自由貿易を促進したい立場だ。

 「米国が良しとするだろうか。トランプ米大統領は『俺が中国と戦っているのに日本は商売するのか』と思うのでは。東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に米国から横やりが入る可能性もある」

 -日中友好ムードでも沖縄県・尖閣諸島周辺での中国公船による領海侵入は一向に減らない。

 「日本側は安全保障面の課題を中国と正面から議論するのを避けている印象がある。中国は日本にすり寄りたい立場で、日本の方が立場は強いはずだ。外交的に毅然(きぜん)と主張しないと『日本は領海侵入されても平気なんだ』と国際社会に受け止められてしまう」

 -日本政府は香港のデモに関しても、人権問題としての直接的な言及を避けている。

 「中国の機嫌を損ね、関係を悪くしたくないという力が過剰に働いている。米国は議会が厳しく批判し、トランプ氏も発言を強め、欧州連合(EU)も懸念を表明しているが、日本は助けを求められても及び腰だ。人権問題への意識が希薄と受け取られかねない」

 -習近平国家主席は東アジアの安全保障環境をどう見ているか。

 「中国は太平洋に海洋進出したいと考えている。だから在日米軍がブロックしている現状が気に入らない。2013年に一方的に防空識別圏を設定したことを思い出してほしい。習氏は『にこにこ外交』をしていても、安全保障環境を変えたいと思っている」

 -来年春に習氏が国賓として訪日する。日中関係の基礎となった四つの政治文書に続く「第5の文書」となる共同文書の作成も取り沙汰されているが。

 「期待していない。日中は現状、互いに警戒しながら付き合っているわけで、習氏が訪日しても、日本を取り巻く厳しい安全保障環境は何も変わらない。経済面を主とした戦略的な関係維持を再確認するぐらいにとどまるだろう」(聞き手は塩入雄一郎)

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 中国は1日、建国70年を迎えた。この70年、改革開放の旗印の下で急激な経済発展を遂げ、「大国」としての存在感を高めた中国。その一方で、覇権的な行動も見られるようになり、米国などとの緊張も高まっている。世界の中国との向き合い方はどう変わり、これからどうなっていくのか-。日本、米国そして東南アジアの識者に尋ねた。

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こうろぎ・いちろう 大分県出身。九州大卒、東京外国語大と米カリフォルニア大で修士号。外務省専門分析員などを経て現職。専門は現代中国論。59歳。

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