対中戦略を問う(下)タイ・タマサート大教授 プラパット・テープチャトゥリー氏 「親中」強まり結束に試練

西日本新聞 国際面 川合 秀紀

 -中国に近い東南アジアにとって中国との関係はどう変遷してきたのか。

 「冷戦が始まった頃、共産主義の中国は最大の敵だった。1967年発足の東南アジア諸国連合(ASEAN)も元々は『反共』の同盟。だが冷戦終結後に関係が改善し、90年代以降、中国の経済発展とともに結び付きがさらに強まった」

 -中国は2013年に提唱した巨大経済圏構想「一帯一路」に沿って東南アジア進出を強めている。

 「東南アジアが重視されるのは中国の安全保障のため。中国最大の弱点は、石油など交易の大半をマラッカ海峡を通るルートに頼っていること。一帯一路に港湾や鉄道のプロジェクトが多いのは他のルートを陸と海で確保したいからだ」

 -米紙が7月、カンボジア南岸の基地を中国が30年間利用できる密約を結んだと報じた。両政府は否定したが、衝撃を与えた。

 「その基地一帯では中国が港湾などの整備を支援している。一帯一路は軍事的な戦略と結び付いているのだ。中国内陸部に石油を運ぶパイプラインがあるミャンマー西岸でも中国がインフラ支援を進めており軍事利用を狙っているはず。このままでは地域の安全保障のバランスが一変する」

 -東南アジアもリスクを理解しているのでは。

 「そうだが、ミャンマーやカンボジア、ラオスは自力でインフラを整備できず『仕方がない』と思っているはず。東南アジアで強まる強権的な政治に対しても中国は何も批判しない。その代わり、結び付きはさらに強まっていくだろう」

 -中国と東南アジアの一部が領有権を争う南シナ海問題はどうなるか。

 「以前ほど対立は深刻化していないが、紛争回避に向けた行動規範(COC)の策定協議は長期化しており、その間に中国が軍事拠点化をさらに進め、実効支配する可能性は高い」

 -米トランプ政権は「自由で開かれたインド太平洋戦略」のほか、昨年末に南シナ海などの安全保障を強化する「アジア再保証推進法」を成立させた。

 「冷戦後、米国におけるASEANの位置付けは低下したが、オバマ前大統領が再び関与を強め、トランプ政権が中国封じ込めを鮮明にした。新たな冷戦状態になっており、南シナ海で中国と米国の軍事衝突が起こる恐れは否定できない」

 -ASEANは6月の首脳会議で独自構想「インド太平洋の展望」を採択し、対話と協力を訴えた。

 「伝統の『ASEAN WAY』だ。中国、米国どちらにも付かずバランスを取り、対立に拍車を掛けない仲介的な概念を発信したかったのではないか。ただ、国によっては『親中』が強まっており、全会一致のASEAN方式を続けるのが難しくなっている。岐路にあるからこそ、日本がもっと積極的に東南アジアに関与してほしい」 (聞き手はバンコク川合秀紀)

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プラパット・テープチャトゥリー タイ・タマサート大政治学部卒。タイ外務省に入り、参事官や大阪総領事館領事などを経て現職。元タマサート大ASEAN研究センター所長。64歳。

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