慰安婦問題、国家主義が解決の壁か 日本社会の性差別とレイシズム 木下直子さんに聞く

西日本新聞

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木下直子さん

2011年、韓国・ソウル市の在韓日本大使館前の公道に設置され、元慰安婦の韓国人女性たちに囲まれる少女像

 韓国人の元慰安婦の人たちに対する補償問題が、日韓合意で設立された支援財団の解散を受けて宙に浮いている。元徴用工問題も加わって経済摩擦にまで発展し日韓関係は戦後最悪と言われる。慰安婦問題の解決へ障害となっているものは何か。九州大が9月に開いた国際シンポジウムの慰安婦問題セッションに参加した「特定非営利活動法人 社会理論・動態研究所」の研究員で、北九州市立大などで非常勤講師を務める木下直子さん(歴史社会学、フェミニズム理論)に聞いた。

 -日韓双方の過剰な国家主義への傾斜が、慰安婦問題の解決を妨げているとの見方もありますが。

 「韓国側の運動や『慰安婦』を扱った商業映画を見ると、少女像のモデルになったような13、14歳ぐらいの若い女性が暴力的に強制連行されて性奴隷にされた、といった定型的な被害者ストーリーが強調される傾向にあります。〈守られるべき民族の娘〉が被害に遭ったという、女性の『貞操』に価値を置く家父長制的な視点とともにある歴史観は、日本に対する怒りに火を付け、ナショナリズムを刺激します」

 「10代前半で連れて行かれた人は確かにいらっしゃって、そうした人たちの痛み、心身に負った傷はとても深いということは容易に想像できます。最もひどい事例を挙げて訴えることはとがめられるべきではないと思います。ただ、これまでの研究や運動から、被害者の年齢層や『慰安婦』になる過程も多様であったことが分かっています。親族にお金を渡され慰安所に送られたり、うその仕事内容にだまされて誘拐されたりした女性が多数いたほか、一部にはもともと売春業に従事せざるを得ない生活を送っていた女性もいたと考えられています。植民地支配下で朝鮮半島の人たち自身も『慰安婦』の送り出しに巻き込まれた複雑な被害の実相に目を向けず、無垢な少女が暴力的に連行されたという象徴的なイメージが強調されると、大衆的な怒りを誘発するばかりで、歴史に対する冷静な議論が進展しません」

 「〈守られるべき民族の娘〉という家父長制の庇護(ひご)を受ける存在を闘争のシンボルにするナショナルな運動は、守られるべき存在とそうではない存在に女性を二分してしまいます。それでは、女性に対する差別や人権侵害を根絶しようという志向性をもつ慰安婦問題の根源的な解決にはつながらないと思います。もちろん、韓国側の反発は日本の歴史修正主義の拡散が深刻であるがゆえでもあるので、日本の市民としては、加害の事実がこれ以上、国内でねじ曲げられないよう努力し、研究成果を広めなければなりません」

 -日本政府は、日韓合意に基づく「和解・癒やし財団」を解散した韓国政府に対し、合意履行を求めています。それが正当な主張だとしても、加害側としての立場がある。「約束を守れ」の一点張りでは、韓国側にどう映るでしょうか。

 「日本政府の法的責任をはっきりさせて公式謝罪と賠償を求めるという立場の被害者や支援団体の人たちからすれば、日韓合意は中途半端でパフォーマンス的に映り、侮辱的だ、と主張するのは理解できます。文在寅(ムンジェイン)大統領は、大統領選で日韓合意を批判して当選していて、公約に従って行動しています。ただ、あの合意を上回るものを今からつくるのは難しい。日韓合意をもとに何かを引き出さないと、それから先は考えにくいところがありました」

 「安倍首相としては、今の状況は、韓国側の問題として非難し続けることができて、実は好都合なのではないですか。日韓合意をもとに被害者の心の傷を癒やす事業を展開するなら、当時の日本側の罪に正面から向き合わざるを得ないわけです。『韓国のせいだ』と言い続けて、結果的に韓国に対する国民全体の不信感や嫌韓ムードを生み出し、一定の支持率に結び付けている面すらありそうです」

 

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