公証制度揺らぐ信頼 ミス件数 国公表せず「聖域化」 効力失う例も

西日本新聞 一面 久 知邦

 離婚時に取り決めた養育費の支払い逃れを防ぐため、公正証書を作成したというシングルマザーの女性から「公証人のミスで財産の差し押さえができなかった」との訴えが特命取材班に寄せられた。実は、公正証書の信頼性を巡る裁判は後を絶たず、公証制度の信頼が揺らいでいるとの声もある。法務省は公証人の問題事例を公表しておらず、国民に知るすべはない。

 公証人は、法相が任免する事実上の公務員。公証人が作成する公正証書は強い証明力と執行力を持ち、裁判で判決を経ずとも財産の差し押さえができるため、「予防司法」と呼ばれる。

 女性は2003年に離婚。当時4歳だった息子の養育費について、元夫が毎月5万円を支払うことで合意、公証役場で公正証書を作成した。その後、元夫は長年行方不明だったが、数年前、福岡県内で働いていることが会員制交流サイト(SNS)で判明。公正証書を基に強制執行の手続きを裁判所に申請したという。

 これに対し元夫は、公正証書に記載された養育費の支払期間が曖昧だとして異議を申し立てた。証書には「03年6月から大学等最終学歴の課程を卒業する日の属する月(ただし、進学しないときは満20歳に達する日)まで」とあり、大学進学時に何歳まで支払いが続くのか分かりにくい。

 裁判所はこの点から「金銭支払いを目的とする公正証書と言えない」と判断した。女性の代理人弁護士は「普通は満20歳までと明記し、ただし書きに『20歳時に大学に在籍していれば卒業まで』と書く。明らかに公証人のミス」と話す。

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 00年代初頭に「公正証書問題対策会議」の副代表として活動した椛島敏雅弁護士(福岡市)は、「公証人のミスは決して珍しくない」と指摘する。

 椛島氏らは地方法務局が年に1回、公証役場に行う立ち入り調査の記録を情報公開請求し、開示された03年度分を分析した。それによると、全国552人の公証人のうち、59%に当たる329人がミスを指摘されていた。1126件のミスのうち672件が公正証書関連で、印鑑証明と公正証書の印影が違うといった単純ミスも目立ったという。

 本紙も、法務省に18年度の立ち入り調査の結果を情報公開請求した。各公証人が作成した18年度の報告書568枚が開示されたが、肝心のミスなどの指摘件数は黒塗りで非開示だった。

 法務省は「事実上の公務員である公証人の名前は開示の対象。一方で、公証人の報酬は手数料などで賄われており個人事業主の性格が強く、ミスの件数を開示すれば競争上の利益を害する恐れがある」と説明。過去に開示した理由は「判断が間違っていたとしか言いようがない」と話した。

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 日本公証人連合会によると、遺言公正証書の作成件数だけでも18年は約11万件に上り、1989年の2・7倍に増えた。公証人は登用試験で任用され、研修を受けて就くと法律で定められるが、実際には退官した検察官や裁判官から任用する特例措置が長年続く。

 今村与一横浜国立大教授(民法)は「独立した法律専門職にふさわしい養成教育や、継続研修の体制を欠いていることがトラブルの最大の要因」と話す。

 法務省に懲戒権がある司法書士の場合、懲戒処分をすれば「遅滞なく官報で公告」すると定められるが、公証人に公表規定はない。全体のミスの件数でさえ法務省は回答しなかった。

 女性は「子どものために精いっぱいやったつもりだったのに…。ミスが多いと知っていれば頼まなかった」と憤る。今村教授は「公証人は退職した元検察官らにご褒美として与える仕事ではない。業務内容について国民に知らせる責務も全く果たされず、『聖域化』されている。法務省の姿勢に問題がある」と疑問を投げ掛けた。 (久知邦)

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