ノーベル化学賞 情報化社会を支える偉業

西日本新聞 オピニオン面

 スマートフォンなどに使われるリチウムイオン電池を開発した旭化成名誉フェローで名城大教授の吉野彰氏(71)ら3氏にノーベル化学賞が贈られることが決まった。

 吉野氏は大阪府出身で現在は神奈川県在住だが、九州との縁も深い。昨年まで九州大の客員教授を務め、後進の指導に当たった。開発のポイントとなった実験は、旭化成創業の地である宮崎県延岡市の研究所で実施したともいう。日本の産業界の底力を示す、サラリーマン研究者の受賞を心から祝福したい。

 リチウムイオン電池は繰り返し使える「2次電池」で、小型で高性能、加えて長寿命という特長がある。スマホやデジタルカメラ、ノートパソコンなどに使われ、情報通信時代のまさに礎を築いた技術と言えよう。

 二つの電極の間をリチウムイオンが行き来して充電と放電を繰り返す。同時に受賞する米国の研究者2人の業績によって、プラス極にコバルト酸リチウムを使用すれば、電圧を飛躍的に高められることが分かった。これに吉野氏が特殊な炭素材料をマイナス極として組み合わせ、電池の基本構造が完成した。

 3人それぞれが試行錯誤と努力を続けた結果の栄誉である。吉野氏は若手研究者の心構えとして、「壁にぶつかっても耐える粘り強さと柔らかな発想」を挙げている。科学の分野にとどまらない、全ての若者へのメッセージと受け止めたい。

 リチウムイオン電池は、未来を開く技術でもある。ハイブリッド車や電気自動車に使われ、太陽光発電や風力発電の蓄電池としての役割も期待される。

 脱炭素社会の実現に向け、多くの研究機関が多彩な研究に取り組んでいる。燃料電池などに使われる水素エネルギーでは、九州大の国際研究センター(福岡市)が最先端に立つ。「環境問題に答えを出していかなきゃいけない」と吉野氏が語る決意を、幅広い分野の科学者が共有してほしい。

 実用化に直結する研究を重視する傾向は企業、大学問わずに強まり、基礎研究が先細りしているという指摘は根強い。国立大の運営費交付金が削減され、非正規ポストで働く若手研究者が増えるなど研究環境も悪化している。国際的に評価される重要論文の数も減少傾向だ。

 吉野氏が今回の業績を成し遂げたのは30代である。それが情報機器のイノベーションにつながり、ノーベル賞という評価が定まるまで30年以上を要した。基礎科学と応用科学のバランスを図り、次代を担う研究者、技術者をどう育成するのか‐。国も企業も長期的視野で、この難問に取り組むべきである。

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