「一喜一憂」が楽しいのだ

西日本新聞 オピニオン面

 「一喜一憂」という言葉がある。辞書では「情況が変わるたびに喜んだり心配したりして落ち着かないこと」と説明している。

 政界では「支持率の上下に一喜一憂せずに」などと使ったりする。無駄に感情を動かしてもしようがない、という意味だ。

 しかし、人々がわざわざ「一喜一憂」に浸ろうとするジャンルが存在する。それがスポーツ観戦だ。

 野球で言えば、応援するチームの攻撃で打者が出塁すれば「おーっ」と歓声を上げ、けん制で刺されれば「あー」と落胆する。「おーっ」が「喜」で、「あー」が「憂」だ。一試合に無数の一喜一憂がある。

 試合に勝てば「喜」、負ければ「憂」。そしてシーズンが終わり、チームが優勝していれば、1年が「喜」で締めくくられる。

 仮に、自分の好きなチームがシーズン全試合を勝って優勝したとする。うれしいかもしれないが、楽しくはなかろう。強ければいいというものでもない。

   ◇    ◇

 ギラヴァンツ北九州は、北九州市を本拠地とするプロサッカーチームだ。

 Jリーグ(日本プロサッカーリーグ)のJ3に所属する。私たちが通常「Jリーグ」と呼んでいるのはレベルが最も高いJ1。その下にJ2、さらにその下にJ3がある。J4はない。

 ギラヴァンツは昨シーズン、J3で17チーム中最下位だった。日本のプロリーグで自分たちより下がいないという不名誉な立場に陥ったのである。

 そのギラヴァンツが今季、好調だ。実績のある監督の招聘(しょうへい)、選手の大幅入れ替えなどフロントのてこ入れが功を奏しているらしい。

 今季の25節終了(今月6日)時点で、ギラヴァンツは13勝5敗7分けでリーグ2位。J3は2位までが自動的にJ2に昇格するが、1~4位がだんご状態の中でJ2昇格を争っている。昨年の6勝17敗9分けに比べれば大健闘である。

 ファンにとって、昨年の勝敗(引き分け除く)を試合順に一喜一憂で表現すれば「憂喜憂憂喜憂憂憂憂憂憂喜喜憂喜憂憂憂憂喜憂憂憂」と重苦しい。今年は「喜喜喜喜憂喜憂喜喜喜憂憂喜喜喜喜喜憂」。おお、字面も何となく明るい。

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 私は昨年、ギラヴァンツの試合を1度見に行った。サッカーファンでも何でもないのだが、あまりの低迷ぶりが私の「判官びいき」精神を刺激したのだ。決定機を何度か外し、結局は0-0という典型的な凡戦で、残念ながらあまり感情の動かない試合だった。

 今年も9月下旬、関東地方のスタジアムに足を運んだ。選手の名前を一人も知らない不真面目な私にも、去年とはチームの動きが違うのがわかる。1点先行されたがすぐに追いつき、前半の終盤に逆転。後半も1点追加するという盛り上がる展開だった。一喜も一憂もふんだんに味わえた。

 帰り支度のファンに「調子いいですね」と声をかけたら「監督が代わりましたからね。相当厳しく鍛えてるらしいですよ」と教えてくれた。「常勝軍団」などを応援するのとはまた違う楽しさがそこにある。

 さて、ギラヴァンツファンの今シーズンが、J2昇格という大きな「喜」でくくられるか、昇格を逃し「憂」で終わるか。最終戦は12月8日の予定である。

 (特別論説委員)

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