子どもの注射 痛みを減らす 30分前に麻酔クリーム 子ども向けの説明冊子 治療現場の変化 徐々に

西日本新聞 医療面 井上 真由美

 子どもの注射は痛くないように-。小児科で注射される子どもが泣き叫ぶのは当たり前の光景になっているが、麻酔剤や丁寧なケアで痛みの軽減に取り組む小児科もある。医療現場での苦痛を和らげることで、子どもが治療に向かう姿勢が前向きになるという。

 「あれ? 痛くない」。注射する前の泣き顔は、針を刺している間に笑顔に変わった。1日午後、福岡市立こども病院(同市東区、239床)の総合診療科。慢性気管支炎などで3カ月に1回程度、血液検査を受けに来る小学3年の花歩ちゃん(8)は「いつもブスッと刺さる感じだけど、今日はちょっとチクッてしただけ」と笑った。

 同病院は2016年12月、注射する前に外用局所麻酔剤を使い始めた。針を刺す部位にクリームを塗ったり、パッチを貼ったりして、30分程度置いてから注射すると、ほとんど痛みを感じない。薬価はクリームが1グラム188円、パッチが1グラム311円。副作用としては使用部位の紅斑などが指摘される。

 2歳から病院通いが続く花歩ちゃんは、入院時に手の甲に点滴された際の痛みと恐怖が忘れられず、大の注射嫌い。この日はパッチを貼ってもらい「注射は逃げたいけど、痛くないパッチがあればやってもいい」。付き添った母美登里さん(48)も「注射は痛いものだと思い込んでいたので驚いた。30分待つのは長いけど、子どもが痛くないなら使ってあげたい」と話す。

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 導入を呼び掛けたのは、総合診療科の古野憲司科長(49)。最初の数カ月は「処置時間が長くなり、手間がかかる」「効果がよく分からない」など院内の反発もあり、ほとんど使われなかった。

 説明を繰り返して徐々に浸透。17年9月以降、同科の外来や病棟などで月千~2千人に使っている。一刻を争う救急患者や新生児、親が「時間がない」と拒否する患者を除き、約7割に上る。

 川崎病や肺炎などの感染症で入院した場合、2~3日に1回は採血があり、注射への恐怖が積み重なる。採血のたびに泣き叫んでいた子が、麻酔剤を使うと泣かずに注射でき、顔に達成感を浮かべるようになるという。古野科長は「恐怖心が取り除け、その後の治療に積極的に取り組むようになる」と強調する。

 麻酔が効くまでの時間を使って、医師や看護師が治療についてより丁寧に説明するようになる効果もあったという。

 古野科長は「本来は予防接種など、子どもが初めて医療に接する場面で痛みを感じさせないようになるのが望ましい。開業医や保護者にも痛み軽減の必要性を知ってほしい」と呼び掛ける。

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 「治療の主語を子どもにするか、医療者や親にするか。子どもの視点に立つ発想が必要だ」。小児科医で西南女学院大の笹月桃子准教授(小児緩和ケア)も痛み軽減の意義を説く。

 自身も福岡県内の病院の勤務医時代、治療時のストレス軽減に取り組んだ。母子を離して注射していたのを母親に抱っこされたままできるようにしたり、子どもが事前に検査内容を知って受けられるように子ども向けの冊子を作って丁寧に説明したりした。

 そもそも日本では「一瞬の痛みなら子どもは覚えていない」と誤解され、「痛みを我慢するのは美徳」という価値観もあって、治療の痛み軽減への配慮はあまりされていなかった。ところが、米国では、出生直後に医療処置を数多く受けた早産児は、成長後に痛みに強い反応を示すといった研究報告もあり、子どもの痛み緩和が重視されているという。

 笹月准教授は「日本では、親が自らの価値観に基づいて治療方針を決定したり、医療者の考えで治療が行われたりする。注射の痛みを取るだけでなく、治療を受ける子ども自身がどう感じているかを想像し、尊重するきっかけにしてほしい」と訴えている。

 (井上真由美)

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