【文化のUDを進めよう】 関根 千佳さん

西日本新聞 オピニオン面

◆施設、情報、サービスも

 文化の日が近づいてきた。「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という憲法25条の1を思い出す。解釈は諸説あるが、私たちは「文化に触れながら生きたい」と願う。日本文化、伝統文化、芸術や書物などと共に豊かさを実感したいのだ。しかし、実際には、その文化に触れるのが難しいこともある。

 母が手がけた人形の展示会を11月初めに、福岡市で開く準備を進めている。50年ほど続けてきた木目込人形の作品65体を並べる、母の人生で初の個展となる。最初は、センスの良さそうな小さなギャラリーを探してみた。インターネットの情報では、素敵(すてき)な施設はあるのだが、問い合わせてみると、これがなかなか難しい。バリアフリーではないのだ。「半地下で階段しかないのです」「建物の玄関にかなり段差がありまして」「展示スペースが狭く、車いすは通れないです」などなど、バリアーの山だった。

 87歳の母は、昨年から移動に車いすを使っている。数時間座っているのも、車いすでないと難しい。だが、個展となると、やはり母自身がその会場に居てほしい。トイレの問題もある。いろいろ探した結果、一般のギャラリー利用は諦め、天神にあるアクロス福岡のギャラリーを借りることにしたが、選択肢の少なさを実感した。

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 この件で、私は思った。アクセスが難しいギャラリーがこれほど多いということは、そこで開催される展示会のほとんどに、車いすユーザーは参加が難しいのだ、と。足の悪い人、ベビーカーユーザーにも行きにくい場所ばかりでは、いわば「文化に触れる」機会を制限される人がたくさんいることを意味する。

 ギャラリーだけではない。ライブは? 演劇は? スポーツはどうだろうか? 先日拝見した福岡市総合体育館は、交通アクセスが少し遠い気がしたが、よくできたユニバーサルデザイン(UD)の建物だった。

 物理的な部分だけでなく、内容(コンテンツ)へのアクセスはどうだろう?

 欧米では、テレビや映画、ネット上の映像に、字幕や副音声を付けるのが常識になっている。ネットでのオンライン教材も同様で、字幕に関する法律に違反したとして、米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)やハーバード大学が提訴された事例もある。

 日本でも東京に常設のUDの映画館ができ、京都市では映画のUD上映会が盛んだ。九州でも進むといいな。

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 9月まで京都文化博物館で開催されていた「百花繚乱(りょうらん) ニッポン×ビジュツ展」は、作品解説のQRコードをスマホで読み込むと、詳しい案内が文字表示され、音声でも聞けて聴覚・視覚障害者に分かりやすかった。多言語版もあった。なんてUDなサービスなのだろう! このような方式は世界標準になりつつある。

 伝統文化も同じだ。歌舞伎や能楽で、字幕や音声解説の導入が進めば、その内容を多言語化した外国人への情報提供も加速する。

 30年くらい前にニューヨークのメトロポリタンオペラで、座席の前の小さな液晶画面に字幕が表示されているのを見て、感動したことを思い出す。イタリア語やドイツ語で歌われるオペラでは、米国人にも字幕は必要だ。能や歌舞伎に現代語訳がつけば、若い人にもっと足を運んでもらえるかもしれない。

 私も、今回の母の人形展では、数体は手で触れられる展示を行い、作品解説は後から音声で聞けるようテキストデータを準備したい。多くの人が、さまざまな文化や芸術にアクセスできてこそ、UDな文化国家だといえると思う。

 【略歴】1957年、長崎県佐世保市生まれ。九州大法学部卒。81年、日本IBMに入社。ユニバーサルデザインの重要性を感じ、98年に(株)ユーディット設立。同社社長、同志社大教授など歴任。著書に「ユニバーサルデザインのちから」など。

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