シュタイナー教育 発達に応じて、個性を伸ばす

西日本新聞 くらし面 四宮 淳平

 近年、幼児教育の現場などで注目される「シュタイナー教育」は、子どもの年齢を基準にした発達段階に応じて、それぞれの個性を伸ばすことを目指しているという。提唱者はドイツの哲学者で教育者のルドルフ・シュタイナー(1861~1925)。世界的に広がっているとされる教育に触れるため、小中学生に当たる約40人が通う福岡市南区の「福岡シュタイナー学園」を訪ねた。

福岡市の実践機関、40人が学ぶ

 9月下旬、民家の一室を教室に、小学6年に相当する5人が教師と向き合っていた。算数の授業で教師の山本真由美さん(54)は、古代エジプトの話題を切り出した。5人は昨年、社会科で学んだ内容に思いをはせる。ナイル川が氾濫し、運ばれてきた土の堆積で肥沃(ひよく)な土地が再生、下流で農耕文化が栄えた-。

 山本さんは間を置いて続けた。「でも、土地が広がってどこが誰の畑か分からなくなると王様は困るよね」。王は広さに応じて税を徴収している。「どうやって測ったのかな」

 そこで12カ所の印が等間隔にある輪っか状のひもを配り、木の板の上で三角形や正方形などを作らせた。さまざまな図形を組み合わせれば広さが測れることを気付かせる学習だ。

 翌日には縄で実際に近くの公園や教室の広さを測り、面積の求め方につなげた。「教材は全て教師の手作り。授業内容も子どもたちの状況を見ながら変えています」と山本さん。教科書は使わない。

学びを通し、使命や才能を

 福岡シュタイナー学園は2009年に創設され、現在はNPO法人が運営する。出発点は山本さんと1人の保護者だった。「国や時代が違っても普遍的な学びがあるはずだ」との思いが原点にある。

 山本さんは元公立中の理科教師。駆け出しの頃は教師が議論しながら学校の方針を決める雰囲気があった。しかし教育改革の名の下、職員室は次第に「上からの指導」に左右される空気に包まれるようになった。

 大人の変化に連動するようにして生徒も変わった。疑問や思考よりも「正しい答え」を優先させるように感じた。違和感を抱きつつ校外でさまざまな講座を受ける中、シュタイナー教育を深く知ることになった。

 「子ども自身が学びを通し、内に眠る使命や才能を見つけ育む」「成人後は権威や評価、利害にとらわれず、自らの責任で考え、実行できる」。そんな理念に光を感じ、15年務めた公立中を04年に退職。シュタイナー教員の養成コースを修了し、福岡での学校設立を目指して運動を始めた。

 開校して1年生の担任になった。学園では中学3年に当たる9年生まで基本的に担任は変わらない。一貫教育が可能な分、異なる教科でも「全てをつなげた授業ができる」のだという。

子ども目線を第一に

 シュタイナー学校には公立校になじめず通う子もいるが、教育内容に魅力を感じて選択する家庭も多い。

 3人の子どもが通う福岡市の会社員前原志好さん(45)は、妻からシュタイナー教育を聞かされた。「ただの西洋かぶれじゃないかな」。当初はそう思ったが実践する幼稚園に長男を通わせるようになり認識を改めた。単なる歌やごっこ遊びも、先生の素朴な話が豊かなイメージを引き出させているように思えた。

 長男は、就学してからも演劇などの発表会では自信に満ちあふれているように映った。前原さんは「自信の根拠なんて何もないはずなのに」と苦笑する一方、その表情に安心感を抱く。「失敗を恐れる必要がなく、好きな物に没頭しやすい環境が大きいのでしょうね」

 山本さんの算数の授業では、こんな場面もあった。問いへの答えを自力で引き出そうと、図形と格闘する男子に山本さんが助言した。すると男子は「ほとんど答え(を教えた)みたいなもんやん」と少し反発した。山本さんはすかさず「ごめんね」と口にした。

 思考力も計算力も異なる個々の子どもへ、周囲が適切に助言することは難しい。子どもの目線を第一に、笑顔で接する山本さんの姿にこの教育の一端を見た気がした。(四宮淳平)

世界90カ国に1200校

 シュタイナー教育は今年、提唱されて100周年になる。小学生以上を対象とするシュタイナー学校は現在、世界90カ国の1200校に広がっているという。国内には福岡シュタイナー学園を含む全日制の7校が設けられている。

 小中一貫の9年制を導入する福岡シュタイナー学園では、1こま45分の「専科授業」があり、子どもたちは発達段階に応じた教育目標に沿って英語や生活、書写、美術などを学ぶ。特徴的なのは、ほぼ毎日ある約100分間の「エポック授業」。算数、国語、歴史などから一つを選び、3~4週間はそのテーマだけに取り組む。1年生の一日の例は午前8時40分に授業が始まり、帰りの会終了が午後2時となっている。

 通知表や定期テストはなく、教師は学年の終わりに一人一人の学びや課題、成長の様子を文書で保護者に渡している。フリースクールと同じ扱いで、子どもたちは居住地の公立学校に在籍したまま通う。

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