「ちくご大歌舞伎」記者挑む 市民の熱意と優しさ支えに 久留米市で20日披露

西日本新聞 もっと九州面 平峰 麻由

 福岡県久留米市の毎年恒例イベントで、市民が舞台に立つ「久留米ちくご大歌舞伎」が20日開かれる。49回目を迎える歴史ある舞台に、私たち久留米総局の記者も毎年出演するが、慣れない動きや言葉遣いに悪戦苦闘。それでも周囲の熱意と優しさに支えられ、稽古もいよいよ大詰めを迎えている。

 「ではまず、ごあいさつから」。稽古を付ける舞踊家・花柳津祢里(つねさと)さん(64)と初めて向き合った時、稽古場の空気が引き締まるのを感じた。ビシッとした着物姿。他の参加者も浴衣に着替えている。「しまった」。私だけが時間がないからと、私服のまま。歌舞伎の練習は和服が基本だなんて。聞いてないよ。

 「よろしくお願いします」。手をついて恐る恐る頭を下げた。「稽古の時は腕時計やネックレスは外しましょうか」。また慌てる。自分に歌舞伎の舞台なんて務まるのか。不安でいっぱいのスタートだった。

   ◇    ◇

 私が出演するのは演目「白浪五人男」。大盗賊5人衆が稲瀬川に差し掛かった時、待ち伏せていた捕り手たちに取り囲まれる名場面で、桜の木の下、盗賊たちが1人ずつ七五調のリズムで名乗りを上げるのが見せ場。私は盗賊・赤星十三郎を捕らえる捕り手の一人で、赤星を相手に、十手を持って打ちかかる「立ち回り」がある。この立ち回りは、1人の盗賊に2人ずつ、10人の捕り手たちが飛びかかるシーンで、一人でも動きがずれれば台無しだ。

 稽古では、足の動きが左右逆になったり、手の向きが反対だったり。どちらかを直せば、またどちらかが間違う間抜けぶりで、津祢里さんも苦笑い。自分の動きがどうすれば美しく見えるのか、いかに日頃意識していないかを思い知った。

 合同練習で顔を合わせた他の捕り手は、小学生から大学生。最年長者の私は、隣の捕り手にぶつかったり、足を踏んだりと散々だった。赤星役と初めて稽古をした時は、傘を首もとに突きつけられてひざまずく場面で、傘が届かないほど離れた位置にかがんでしまい、周りもぽかーん…。

 それでも、参加者は優しかった。ある稽古前、浴衣を持ってきたはいいものの、一人で着ることができず冷や汗をかく私に「教えちゃるけん、おいで」と一人が声をかけてくれた。「すぐできるようになるけん」。手取り足取り教えてくれた上、翌日には浴衣を一着譲ってくれた。一緒に帯を結んだ手のぬくもりが心に染みた。

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 正直に言えば、本番に間に合う程度に頑張ればいいと高をくくっていた。だが、参加者の姿を見て自分の甘さを思い知った。演目「松浦の太鼓」は1時間超の長丁場だが、主役は稽古段階で台本を見ず、役になりきって全身で演じていた。

 子どもだけの演目「二人袴」では、使い慣れない古風な言葉も堂々と言い切り、踊りも立派に舞ってみせる子どもたちを見た。きっと稽古以外の時間の多くを自主練習に費やしたのだろう。そこには「いい舞台にしよう」という気持ちしかない。これが、市民歌舞伎の魅力で、半世紀近く続いているゆえんだと感じた。

 すっかり気を落とした私に、津祢里さんは「本来、歌舞伎は数カ月の稽古で人前に出せるほど甘くない。でも、一生懸命やっている姿は必ず見ている人の心を打つ。私も40年近くちくご大歌舞伎に関わって学びましたよ」と笑った。頭の中で拍子木が鳴った気がした。本番まであとわずか。一生懸命、演じきります。 (平峰麻由)

 久留米ちくご大歌舞伎 20日午前11時、福岡県久留米市六ツ門町の久留米シティプラザ「ザ・グランドホール」で。同実行委員会など主催、西日本新聞社など後援。市民ら53人が出演予定。観覧料3千円。実行委=0942(22)6766。

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