「AI車椅子」 移動自在の夢乗せて 支え手の負担減 介護分野での実用化目指す 久留米工業大、空港で実証実験

西日本新聞 くらし面 三宅 大介

 年を取っても、障害があっても、思うがまま外出できる社会に-。そんな願いを込め、久留米工業大(福岡県久留米市)は、人工知能(AI)を搭載した電動車椅子が、利用者と対話しながら自動運転するシステムの研究開発を進めている。介護人材不足が続く中、情報通信技術(ICT)によって「支え手」の負担軽減を図る狙いもあり、まず3年後に介護施設での実用化を目指すという。4日、福岡空港であった実証実験をのぞいた。

 ▼対話もお手の物

 出発保安検査場の先、各便や空港内の案内図が大きく表示されたフライトインフォメーション前。小さな4輪の車椅子に、同大教授の東(あずま)大輔さん(46)が乗り込む。左側に設置された端末のモニターに「(搭乗ゲートまで)どのぐらいかかる?」と話し掛けると「搭乗の最終案内にはゆとりを持って到着しますのでご安心ください」…。もの柔らかな声がすらすらと答えた。そのまま滑るように進む。東さんは膝の上で軽く両手を組んだままだ。

 自動運転の電動車椅子は、備え付けのカメラ映像と、光センサーや赤外線を使った測定システムなどを組み合わせて現在地を確認。AIが前方の2~5メートルの範囲で障害物や人を感知し、止まったり回避したりしながらゆっくり進む。利用者を目的のゲートまで運んで降ろした後、車椅子は単体で元の場所に戻っていく。

 東さんが所長を務める同大の「インテリジェント・モビリティ研究所」が2015年11月に発足し、開発を開始。文部科学省や同県の補助を受け、企業や介護団体の協力を得て商店街などで実証実験を繰り返し、改良を重ねてきた。

 ▼搭乗口まで単独行

 この日は一般乗客のいない夜、搭乗ゲートまでの約200メートルを6~7分かけて走行。「屋内の広大なエリアでシステムがしっかり作動するのか、安全に自動運転できるのか」(東さん)を確認した。

 空港では「歩行にやや不安がある人」の利用を想定している。フライトインフォメーション付近に数台配置し、目的の搭乗ゲートまで「誰かの案内なしに、座って楽に移動してもらうサービスへの応用を考えている」という。技術的には「どんな電動車椅子にも導入が可能」とされ、将来は「自宅から空港までの移動をトータルで支援するシステム」も視野に入れる。

 ただ、仮に個人で導入するとすればシステムだけで1台当たり100万~200万円程度と高額になるとみられる。このため同研究所が着目するのが、人手不足が指摘され、市場規模が大きい介護分野だ。「お年寄りや障害のある人が一人でも施設内を自由に移動できるようになれば、それだけ介護職員の負担軽減につながる」(東さん)。当面は「介護施設への長期賃貸契約による事業化」を目標にしている。

 ▼申し訳なさも解消

 厚生労働省の18年の試算によると、団塊世代が75歳以上になり、介護サービスの需要が高まる25年、介護人材は全国で約34万人が不足するとされる。

 職員の職場環境向上を目的に、既に介護記録の音声入力などの先進的なシステムを特別養護老人ホームなどに導入している社会福祉法人「スマイリング・パーク」(宮崎県都城市)も実証実験の協力団体の一つ。理事長の山田一久さん(49)は「施設で車椅子を使う皆さんのほとんどが介助者がいないと移動できず、手助けを受けるたびに申し訳ないという思いを抱えがち。自動運転の車椅子があれば、利用者側の心理的な負担も解消できる」と指摘する。今後も同法人の施設内での実証実験など、協力を惜しまないつもりだ。

 実用化に向けては、人混みでの運転の精度向上、利用者の個人情報を守るシステム構築など課題も残るが「誰もが笑顔で輝ける社会づくり、福祉の新たなシステムづくりに少しでも貢献したい」と東さん。介護福祉の未来を担う「九州発」の技術革新に期待が高まる。 (三宅大介)

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