シリア人道危機 トルコは直ちに停戦せよ

西日本新聞 オピニオン面

 トルコの侵攻により、シリア情勢が再び緊張の度を高めている。戦闘員だけでなく多数の民間人が死傷し、新たな避難民が生まれている。重大な人道危機である。

 トルコは直ちに軍事行動を停止するべきであり、米国をはじめとする国際社会は危機拡大を招かぬようトルコへの働き掛けを強めなければならない。

 トルコは9日、シリア北部に侵攻した。狙いは、この地域を実効支配するクルド人勢力の排除だ。クルド人勢力は米軍の支援を受けて過激派組織「イスラム国」(IS)掃討に貢献し、同地域の自治権を求めている。だがトルコは分離独立を訴える国内のクルド人勢力と同様に「テロ組織」とみなし、排除する機会をうかがっていた。

 シリア北部に「安全地帯」と呼ぶ緩衝地帯を設け、トルコにとどまるシリア難民の一部を移す計画だ。あまりに独善的な構想であり、国際社会として決して容認できるものではない。

 対するクルド人勢力側は応戦し、緊張関係にあったシリアのアサド政権との連携に踏み切った。政権軍は既に北部地域に展開し、トルコ軍との衝突や戦乱の拡大が懸念されている。

 侵攻から1週間で避難民は25万人超との推計もある。巻き添えとなった市民の死者はシリアとトルコ双方に及ぶ。

 侵攻の誘い水となったのがトランプ米大統領の場当たり的な判断だったことは強い非難に値する。トルコのエルドアン大統領との電話会談で軍事行動の方針を知った後、米国はシリア北部から米軍部隊を撤退させた。事実上の侵攻黙認となった。

 トランプ氏は来年の大統領選をにらみ、海外駐留米軍の速やかな撤退という公約実現を優先したとみられる。

 ただ、IS掃討では最前線で戦ったクルド人勢力に対する「切り捨て」「裏切り」であることは否定できない。さすがに国内外、特に与党や軍人からも厳しい批判の声が出た。トランプ氏は一転してトルコ側に即時停戦を求め始めたが、トルコは強気の姿勢を崩していない。

 シリア内戦終結に向けてロシア、イラン、トルコがシリアの新憲法起草委員会の設置で合意していたが、今回の侵攻で実現は難しくなった。ロシアはアサド政権の後ろ盾であり、トルコとも関係を深めている。両者を仲介する構えだ。米国の「失策」がロシアの影響力を強める結果となった点は留意したい。

 さらに心配なのがISの復活だ。クルド人勢力は対IS作戦は「優先課題でなくなった」と表明し、拘束されていた元戦闘員が逃げたとの情報もある。国際社会に共通の脅威である。

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