学びの共同体 「分からない」から始める 対話の授業 福岡・須恵中の取り組み

西日本新聞 くらし面 四宮 淳平

 授業中、机に突っ伏して寝ている。板書内容はただノートに書き写すだけ…。教室で見られがちなそんな子どもの学ぶ意欲を高めるため「学びの共同体」という学習スタイルを導入する学校が増えている。教師が一方的に教え込む一斉授業から、ともに学び合う形へ。時代のニーズに沿った人材の育成を目指して教育現場で模索が続いている。

 学びの共同体は、教育学者の佐藤学・学習院大特任教授(東京大名誉教授)が1992年に提唱した。次期学習指導要領で小学校から高校まで全てに盛り込まれたアクティブ・ラーニング(主体的・対話的で深い学び)の先駆けとされ、国内では約3千校が導入。韓国やドイツなど30カ国以上で採用されているという。

 福岡県須恵町の須恵中は2017年度から学びの共同体を取り入れている。教室をのぞくと、黒板に向かって机がコの字形に2層、3層と配置されていた。1年生の英語の授業では、隣席の男子と女子が身ぶりを交えて英語で会話。中学生ならではの照れや気だるさは見られなかった。

 案内してくれた原結花教諭(47)は「机の配置を変えたことで生徒同士が仲良くなり、教室の雰囲気も生徒の意識も変わった。ふざける生徒がいると効果は出ません」と語った。

 プラごみ どうする 

 原教諭の担当は国語。プラスチックごみをテーマにコラムを書く授業を3年で実践した。配布されたプリントには、導入部分にレジ袋の無償配布を禁じる法令制定の動きなどの現状、末尾には一人一人の身近な取り組みが大切という主張が既に記されていた。

 生徒にはプラスチックごみを巡る記事や市民へのアンケート結果などが記載された別のプリントも配られた。冒頭と文末を結ぶためにどういった内容で、どう並べたら論理的に主張が伝えられるか、選び出すことがこの日の課題だ。

 まずは1人で考える。隣同士なら静かに話しても構わない。15分ほどたった後、4人一組で机をくっつけた話し合いが始まり、教室内が一気に活気づいた。

 ある班で生徒が組み合わせを発表する。「なんでそれが最初なの」と質問が飛ぶ。「ちゃんと考えてなかったぁ」と、頭をかく生徒の横で別の生徒が「こういう順番と理由じゃ説明がつかないかな」と助け舟。間もなく「やっぱり無理があるよね」とさらに頭をひねる。誰かの「分からない」を起点に意見交換は続いた。

 生徒向き合い、指導重ね

 「私にとってもジャンプだった。焦る場面もあった」。原教諭は9月下旬、福岡県篠栗町の篠栗中であった研修会(第2回九州学びの会)で授業内容を発表し、胸の内を語った。「ジャンプ」とは学びの共同体の実践理論の一つで、教科書を超えるレベルの課題のこと。すぐに答えの出ない難問を前に子どもの思考が深まり、議論が活発化するといった狙いがある。

 九州各地で実践する教師らが集まった研修会では、中学生には難しい素材に質問があった。原教諭は「付け焼き刃ではなく、書く力を付けてもらいたかった」と説明。生徒には毎週末、新聞コラムの書き写しと、それに基づく短いコラムを書かせる宿題を出していることも紹介した。

 懸念された結論への導きはどうだったのだろうか。残り時間が少なくなったところで、生徒の一人が説得力のある組み合わせと理由を発表。多くが納得した。ただ、原教諭は発表内容を肯定しつつ「理由がしっかりしていれば、もっと面白い組み合わせがあるかもしれないね」と付け加えた。

 安易には提示されない“正解”。次の授業を心待ちにする生徒の姿が目に浮かんだ。(四宮淳平)

「教室の主人公を子どもに」提唱者の佐藤学さん

 「学びの共同体」を提唱した佐藤学氏が9月、第2回九州学びの会で講演し「教室の主人公が教師になっている現状から、子ども一人一人に変えないといけない」と強調した。

 根本にあるのは一斉授業に対する危機感だ。教師の質問に何人かの子どもはすぐに手を挙げて応えるが、忘れ物などで隣の子が困っていても子ども同士のやりとりはゼロ-。「手を挙げる子のための授業になっており、級友の言動に無関心な子が多い」と指摘した。

 そこで「聴き合う関係」の重要性を強調。学びは対話によって成立することから「グループ学習は話し合いではなく聴き合いだ」と述べる。そのために、対等な立場での聴き合いが生まれやすい「ジャンプ」、つまりすぐには解けない発展的な課題の投げ掛けが必要になってくるという。

 「子どもの間で思考し探究する能力の差は驚くほど小さい。基礎も身に付いていないのにできないと言われるが、ジャンプをやって基礎が身に付く」と語る。

 教師の技量も試されるが子どもの成長を目の当たりにすることで効果を実感し意欲も増す。「先生が必死に授業をやって子どもは“お客様”という状態を逆にし、子どもたちが120%の力で授業に臨むようすべきだ」と呼び掛けた。

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