住野よるさんのベストセラー小説「君の膵臓(すいぞう)をたべたい」に、主人公の高校生男女が九州の街を訪れる場面がある…

西日本新聞 オピニオン面

 住野よるさんのベストセラー小説「君の膵臓(すいぞう)をたべたい」に、主人公の高校生男女が九州の街を訪れる場面がある。地名は明記していないが、こんな表現だけに容易にどこだか分かる

▼炎天下、2人は「熱く焼けた牛の偶像」に触りながら神前へ。参拝後は茶店で「梅ケ枝餅」、夜は「もつ鍋」を堪能する。そもそも新幹線を降りた直後に女子生徒が放った言葉は「ラーメンの匂いがする!」。そんな駅はめったにない

▼同じようにJR博多駅のホームで、鼻腔(びくう)で豚骨ラーメンを味わった人は多いだろう。遠来の方は「福岡らしさ」と感じるかもしれない。けれど、限度を超すと「異臭」に転じる恐れもある

▼福岡県内で起きているトラブルの記事が本紙にあった。原因は豚骨ガラを肥料などにリサイクルする工場からのにおいだ。臭気は基準値の2倍近く。近隣住民は「窓を開けられない」「洗濯物も部屋干しに変えた」と再三、苦情を訴えているという▼業者と行政、それぞれに言い分はあるようだ。豚骨の再処理は福岡では注目の事業。臭い物にふたをするのではなく、住民にも歓迎される前向きな協議を進めてほしい

▼小説の最終盤で福岡は再び登場する。男子生徒は思い出の地を再訪。「学問の神様がいた場所にできた梅で作られた」酒を土産に買う。悲しい最期を迎えた彼女の霊前に供えるために。こちらは甘酸っぱく、切ない香りだったことだろう。

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