神様の味な贈り物 西口 憲一

西日本新聞 オピニオン面 西口 憲一

 三塁側へ移った今と違い、昔の東京ドームの記者席はバックネット裏にあった。西日本新聞社に割り当てられた席は中央部。投手が正面から見え、他社の同輩いわく「特等席」だった。2000年10月21日の日本シリーズ第1戦、指揮を執ったのは当時60歳の「O」と64歳の「N」。スコアブックに書き込んだスタメンは豪華な顔ぶれが並んだ。

 【ダイエー】①柴原②鳥越③大道④小久保⑤松中⑥城島⑦秋山⑧井口⑨若田部
 【巨  人】①仁志②清水③高橋由④松井⑤清原⑥江藤⑦二岡⑧村田善⑨工藤

 国歌斉唱で足が震えた。直前に病で急逝したダイエーの投手、藤井将雄さんの優しい笑顔が浮かび、気持ちが落ち着いたのを思い出す。

 20世紀最後の日本シリーズは、昭和の野球史に残る巨人のV9を支え、球界の看板を背負った長嶋茂雄、王貞治両監督が巨人、ダイエー(現ソフトバンク)を率いる「ON対決」として日本中から注目された。現在ソフトバンク球団会長の王さんは今年1月、都内で記者会見し、平成の球界を回顧した。19年前の歴史的シリーズにも触れた。

 「区切りの年にON対決なんて神様に失礼だけれど、味なことをやるなと思った。私は常に弟分だったけれど、弟として何とかして兄貴を超えたい気持ちもあった。最初で最後の戦いになったが、長嶋さんと日本一を懸けて戦えた2000年は特別な年」

 現役通算2831試合に出場した王さんは誰よりも多く巨人のユニホームを着た。その王さんが九州で心血を注いで育て上げたまな弟子と共に古巣、そして永遠の盟友に挑んだ。敵地で2連勝しながら、3戦目の大敗から流れが一変し4連敗。翌01年限りで長嶋さんが監督を退いた際、ちゃめっ気たっぷりに「逃げられちゃったなあ」と口にしたという。勝ち逃げされた、との意味だ。半分本音だろう。

 あれから王さんは胃の全摘出手術を受け、巨人終身名誉監督の長嶋さんも脳梗塞を患った。ともに体調を崩した昨年、特に胆石で入院した長嶋さんは容体が心配された。現在は回復し、83歳の「N」と79歳の「O」はそれぞれの立場でチームを見守っている。昭和、平成を経て元号が令和に改まった今年。新時代の幕開けの年に特別なカードが実現した。王さんの言葉を借りれば「味なことをやる」神様からの贈り物。お互いの思い入れの強さと深さが引き寄せた気がしてならない。敵地と本拠地の違いこそあれ、2度目の“ON対決”は19年前と同じホークスの2連勝で始まった。 (東京運動部長)

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