聞き書き「一歩も退かんど」(1) 悪夢のような3日間 志布志事件冤罪被害者 川畑幸夫さん 

西日本新聞 オピニオン面 鶴丸 哲雄

 西日本新聞の読者の皆さん、はじめまして。川畑幸夫と申します。鹿児島県の大隅半島の付け根にある志布志市で、小さなビジネスホテルを経営しています。

 志布志事件と言えば「あのひどい冤罪(えんざい)事件」と思い出す方もいるでしょう。統一地方選で実施された鹿児島県議選で、県警が志布志の山奥の小さな「懐(ふところ)集落」を舞台にありもしない選挙違反をでっち上げ、20人以上の善良な市民の人生を狂わせました。私はその事件の最初の被害者です。まずは悪夢のようなあの3日間のことからお話しします。

 2003年4月14日朝。前日投開票された県議選旧曽於郡区で、妻のいとこの中山信一が初当選し、私は勝利の余韻に浸っていました。中山とは「しんちゃん」「さちおさん」と呼び合う仲。一世一代の選挙に挑む身内を支えようと、私も後援会の「何でも屋」として奔走したのです。

 眠い目をこすりながらホテルの宿泊客の朝食作りを終え、午前8時少し前。自宅でトイレに入っていたら、3人の刑事がやって来ました。実は私は1993年から志布志署の「地域安全モニター」を務めていて、署の人たちとは顔なじみでした。私のホテルのロビーは、外回りの署員が一息つく場にもなっていました。

 「きょうは誰が来たかな」。なじみの顔を想像しつつ下着姿でトイレを出ると、見知らぬ顔の3人が妻の順子に室内へ通されていました。「H」と名乗る警部補が「川畑幸夫さんですね。ちょっと選挙のことで聞きたいことがあります。志布志署までいいですか」。私はてっきり他陣営の情報でも探りたいのかなと考え、「ちょっと行ってくるよ」と妻に言い残し、車の後部座席に乗り込みました。

 すると、H警部補ともう1人が私を両側から挟み込むように座るのです。「あれっ」と違和感を覚えました。「何のことですか」と聞くと、H警部補は人さし指を口の前に立て「シー」というしぐさをするだけ。

 嫌な感じのまま署に到着。いつもの正面玄関ではなく、裏口から署内に通されました。2階の生活安全刑事課で「おはようございます」と言っても、顔見知りの署員は顔を伏せたまま。窓がない取調室へ案内されました。H警部補が「決まりですから持ち物を出してください」。戸惑いつつポケットから免許証などを出すと、いきなり屈辱的な身体検査が始まりました。令状なんてないのですよ。

(聞き手は鶴丸哲雄)

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