聞き書き「一歩も退かんど」(2) 執拗に「配ったろう」 志布志事件冤罪被害者 川畑幸夫さん 

西日本新聞 オピニオン面 鶴丸 哲雄

 2003年4月14日朝。鹿児島県警志布志署の狭くて暗い取調室で、いきなり私への身体検査が始まりました。両手を広げると、H警部補が脇の下やお尻を探ります。「股を開いて」と言われ、股間まで触られました。黙秘権の説明なんてありませんでした。

 壁を背にして、硬い折りたたみ式のパイプ椅子に座らされました。するとH警部補が「何でそこに座っているか、意味が分かるだろう」と言い放ちます。

 私は訳が分からず、思わず「ハアー?」とけげんな声を出すと、「ハアーじゃないがっ」と怒鳴り、机をドーンとたたきます。そして「ビールを配っただろう」と追及が始まりました。「知りません」と何度答えても、「うそつくな」「認めろ」の一点張りです。

 ようやく私が思い当たったのは、この年の1月、知人の建設業者に缶ビールを1ケース届けたこと。前年末、工事の団体宿泊客をホテルに回してくれたことへのお礼で、県議選とは何の関係もありません。もともと、この知人は私のいとこの中山信一ではなく、別の候補を応援していました。

 そのうちなぜか、H警部補の質問が変わります。「四浦(ようら)で焼酎を配っただろう」と言うのです。四浦は志布志の山間部の地区です。「指紋の付いたのし紙もある」とまで言いました。

 実際、私は四浦地区に選挙活動で2回行きましたが、告示前のあいさつ回りと告示後の旗立てでした。焼酎など配っていません。

 さらに驚く発言も。H警部補は、以前汚職事件で逮捕された旧志布志町の前の町長と課長の名を挙げ「○○町長も××課長も、おまえの座っているその椅子で涙を流し『すみません』と罪を認めたんだ」。だからおまえも認めろというわけです。ついには「俺の目を見ろ」と、にらめっこを要求。目をそらすと「やっぱり(焼酎を)配っている」。

 てんで話になりません。私が「これはわなです」と言うと、「わなという言葉を使うなー」と、ものすごいけんまくでした。

 その夜、帰宅したのは午後11時すぎ。ありもしないことであれだけ執拗(しつよう)に責められると頭に血が上っていて、当時は飲めなかった焼酎をロックで3杯、カーッと飲み干しました。「悔しかーっ」。妻の順子に一部始終を話すうち、「もう舌が回っちょらんが」と諭されました。今、私は芋焼酎をロックでたしなみますが、味を覚えたのはある意味、H警部補のおかげです。

 (聞き手 鶴丸哲雄)

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