「玄冬」をどう生きるか 井上裕之

西日本新聞 オピニオン面 井上 裕之

 「青春の門」と言えば、中高年世代の多くはご存じだろう。福岡出身の五木寛之さんが週刊誌上で連載してきた大河小説。1969年の執筆開始から今年で半世紀になる。その五木さんが3年前に、こんな随筆をつづっている。

 「玄冬の門」。古代中国では人生の歩みを四つの季節と色で表した。青春→朱夏→白秋→玄冬(玄は黒色の意)。これにちなんだタイトルだ。

 長寿社会の日本では、玄冬(高齢・老年期)を生きる人が年々増え、今後さらに膨らんでいく。社会保障費は増大し、その負担を抱える若い世代との確執も生じている。

 であれば、老後こそ自立心を持ち、自分でやれる事は自分でやる、孤独を恐れず楽しむ、再学問に挑戦する、若い人には干渉しない、など新たな人生観を築いていく必要がある、と五木さんは説いた。

 高齢者は心身の衰えを実感し、不安や焦りにも取りつかれる。けれども人生100年といわれる今日、老後の時間は格段に長くなった。それをいかに有意義に過ごすか、という問い掛けでもある。

 それに呼応するかのように今春、昭和女子大理事長の坂東真理子さんが本を出した。

 「70歳のたしなみ」。こちらは書き出しから「70代というのは新しいゴールデンエイジ、人生の黄金時代である」と、高齢世代を鼓舞する。

 人は70歳になっても未熟でまだまだ成長の余地がある。「いまさら」「どうせ」「もう遅い」は禁句。重要なことは「キョウヨウ」と「キョウイク」と坂東さんは書く。

 人に促されるのではなく、自ら計画を立て「今日は○○の用がある」「今日は○○に行く」と能動的に暮らすことだ。加えて、戒めもある。

 昔の栄光を振り回さない、受けた恩を思い出す、感謝を忘れない、少しでも人の役に立つことをする…。つまり「何をしてもらうか」から「何をしてあげるか」へ、意識を変えよ、と。五木さんと同様、再学問の勧め、孤独の価値などもつづられている。

 「年齢は捨てなさい」。今年はこんなタイトルの本も話題になった。作家で評論家の下重暁子さんが、年齢に縛られず自由に生きることを説いた随筆だ。五木さん、下重さんは80代、坂東さんは70代、今もそれぞれ現役である。

 1億総活躍社会。安倍晋三首相は臨時国会冒頭の所信表明で改めてこの言葉を強調した。大いに関連施策を進めてほしい。自民党総裁任期も残り2年弱。7年前から続く第2次政権もいわば玄冬期にある。功を焦るより円熟した政治手腕の見せどころであろう。 (特別論説委員)

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