聞き書き「一歩も退かんど」(3) 奮い立つアドバイス 志布志事件冤罪被害者 川畑幸夫さん

西日本新聞 オピニオン面 鶴丸 哲雄

 2003年4月15日の朝が来ました。前日、思いもよらぬ選挙違反の嫌疑で聴取された私は、この日も午前4時に起き、ホテルの宿泊客の食事を作りました。午前8時にH警部補らが車で迎えに来て、志布志署へ。この時、私の胸にはある決意がありました。

 実は前日の深夜、妻の順子に促され、以前、志布志署にいた仲の良い警察官に電話で相談してみたのです。「なんごつな」と電話を取ったその人は「川畑さん。やったのならすぐに認めんば」と言いました。「おいは絶対にやっちょらんが」と潔白を訴えると、こうアドバイスをくれました。

 「やっとらんなら、絶対に認めるな。絶対に供述調書にサインしちゃいかん。裁判で勝てなくなるよ」

 その言葉に私は奮い立ちました。「よーし、絶対にうその買収など認めんど」

 2日目も取調室でまず令状なしの身体検査がありました。H警部補は「四浦(ようら)の焼酎(供与)を認めろ」の一点張り。否認すると「認めてヒーローになれ」「おまえはばかか」と、バンバン机をたたきます。

 さすがに私も我慢できなくなり、「どう見てもおいより年下と思うが、何歳か」と聞くと、「40」と答えます。私が「50を過ぎたおじさんに向かって何を言うか」と語気を強めると、「黙れー」とさらに大声が返ってきました。さらには「昨年6月のベトナム旅行で1千万円を土建業者に配っただろう」。完全な出任せにあぜんとするだけです。

 次第に私は後頭部がずきずきしてきました。10年前に狭心症と診断されていて病院での診察を頼むと、H警部補も渋々許しました。付き添ったのは若い刑事。医師には友達ということにしました。「家に連れて帰り水枕をして安静に寝せなさい」との指示に刑事は「はい」。ところが、車が向かったのは志布志署でした。その前に携帯電話で怒鳴られていたので、H警部補から「逃がすな」とでもしかられたのでしょう。

 取調室に戻ると、県議選で当選した私のいとこの中山信一から私の口座に1千万円振り込む約束があると、また出任せばかり。私がホテル開業の際に負った借金をまだ返済中であることを突いてきて、「何が草の根の選挙ボランティアか」とニヤニヤします。

 腹に据えかね、私が「でっち上げだ」と強く言うと、H警部補が「あーん」とげんこつを握って立ち上がりました。その瞬間、思いました。「殴られる!」

 (聞き手 鶴丸哲雄)

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