差別、家族を「無き者」に ハンセン病補償固まる 「堂々と生きたい」

西日本新聞 社会面 一瀬 圭司

 ハンセン病元患者家族に対する補償法案の骨子が24日、決まった。近く国会に提出される法案には、偏見と差別を根絶する決意が明記され、補償金も支給されることになる。だが多くの人たちは地域や学校で苛酷な差別を受け、今なお暗闇を歩くように生きている。家族訴訟の原告の一人は訴える。「私たちが堂々と生きられる世の中になってほしい」-。

 「ずっと存在しない『無き者』として扱われた」。九州在住の原告の50代女性は、周りから無視され続けた幼少期を振り返る。女性が生まれた時、父はすでに病から回復し、国立療養所「菊池恵楓園」(熊本県合志市)と自宅を行き来していた。

 一家に近所や親類との付き合いはなく、女性は小学校でいつも一人。休み時間に友達の輪に加わろうとすると、すっとその輪がなくなった。授業中に挙手しても教師は指さない。「それが当たり前の環境で育ち、おかしいとも思っていなかった」

 差別に気付いたのは小学3年生のころ。道徳の授業で部落差別問題がテーマとなり「私がされていることと同じだ」と驚いた。背景に父の病があることを悟った。直接暴言を吐かれることはなかったが、中学を卒業するまで陰湿ないじめは続いた。

 唯一のぬくもりは両親ときょうだいで過ごす時間だけ。だがその一家に対する嫌がらせは激しかった。いつも留守中が狙われた。

 ある日、飼い犬が裏庭の木に首からつるされて死んでいた。至る所を殴られていた。別の日には自宅の外壁に火を付けられた跡があった。50センチ四方が黒くすすけ、紙切れが散らばっていた。「地域から出て行けという無言の圧力だった」

 高校で初めて「何でも話せる友達」ができたが、父が元患者であることは伏せた。「暗闇に戻りたくなかった」。社会人を経て結婚しても夫の家族には明かさなかった。以前にきょうだいが婚約を破棄されたことが脳裏をよぎった。

 あれから数十年。きょうだいたちは今も配偶者に父のことを秘密にしたままだ。補償金の支給は決まったが、女性は「お金のことより、私たちが堂々と生きられる世の中になってほしい」と願う。

 希望も持っている。女性はこの夏、初めて娘に父のことを話した。家族訴訟の原告となったことを「誇りに思うよ」と言われた。「子や孫の世代に絶対に偏見や差別を残したくない。想像もできない現実があることを、広く知ってもらいたいんです」。女性は取材を受けた理由をこう述べた。 (一瀬圭司)

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