本音の宮田節聞きたい 川口 安子

西日本新聞 オピニオン面 川口 安子

 いつもの“宮田節”は鳴りを潜めた。先週開かれた参院予算委員会。慰安婦を象徴する「平和の少女像」を展示した愛知県の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」への補助金不交付問題で、文化庁の宮田亮平長官が初めて公の場で口を開いた。

 宮田長官は東京芸大学長などを歴任し、東京駅の名所「銀の鈴」も手掛けた金工作家だ。長官室では手製のドラを鳴らして来客をもてなし、ラジオ番組で就任直後の文化庁の雰囲気を問われ「カタい。面白くない。だってそれが行政だから」と答えるなど自らの言葉で率直に語る長官として知られる。不交付決定に「文化庁が文化を殺すな」など同大からも抗議が上がる中、芸術家である長官が何を語るのか、注目されていた。

 「私あの、決裁はしておりません」。予算委での第一声は、責任逃れとも受け取れる言葉だった。答弁に立つたびに隣や後ろの事務方から紙が手渡される。「表現の自由は極めて、重要であります」。声を張り上げた宮田長官は、その後は「不交付決定を見直す必要はない」など手元の紙を読み上げるばかりだった。

 文化庁次長はこの日、不交付を決めたのは決裁印を押した文化庁の審議官だと強調した。不交付を決めるまで担当者が一度も会場を訪れていないことも明らかになった。

 私は8月初旬、一部展示が中止となる直前の同芸術祭を取材した。少女像が展示された企画展「表現の不自由展・その後」は、90組を超える国内外作家が参加する全体のほんの一部にすぎなかった。

 韓服を着た少女の立体作品自体に過激なメッセージが張られているわけではない。「騒ぐほどではない」と感じた一方で、「日本人の心を踏みにじる」などと批判した河村たかし名古屋市長をはじめとする反応の大きさに、事前に持つ知識や思想によって作品の見方がこんなにも違うのだと考えさせられた。

 現代美術には、固定しがちな社会に対する視線を広げる力がある。「-その後」実行委員会の一人は「図書館にいろんな本があるのと同じ。少数派の人たちの表現こそ公は守ってほしい」と訴える。

 地方の美術事業にとって国の助成は生命線だ。今回の不交付決定は、美術館が国の顔色をうかがい展示作品を選別する分岐点になりかねない。宮田長官は文化庁トップとして現場を自らの目で見て決定に責任を持つべきだった。

 今からでも遅くはない。本音を語る宮田節が聞きたい。表現の自由が危機にひんする今こそ、芸術家長官の出番である。 (東京報道部)

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