聞き書き「一歩も退かんど」(4) 刑事は弱かもんの敵? 志布志事件冤罪被害者 川畑幸夫さん

西日本新聞 オピニオン面

 鹿児島県警志布志署での取り調べ2日目。げんこつを握ったH警部補が、仁王像のように歯をくいしばっています。私が「たたくならたたけ」と言うと、「わいは黙れー」とものすごい怒鳴り声。一息ついて「わいをたたけばおいが処分をくらう」と言い、吐き捨てるように「ばかがっ!」。

 「国民の税金で給料をもらっておいて、国民に暴言を吐くとかっ」と私が言い返すと、珍しく頭を下げました。でも、しばらくすると再び「四浦(ようら)に焼酎を2本、持っていたろうが」「認めろ」「ヒーローになれ」の繰り返しです。

 それにしても、私が焼酎を配ったなんてでたらめがどこから出たのでしょう。何度か尋ねるうちに、H警部補が「山中鶴雄が言った」と口を滑らせました。

 山中さんは志布志の山間部にある四浦地区でも、一番奥まった所にある懐(ふところ)集落の住人です。後から分かったことですが、この日、山中さんも志布志署に呼ばれていて「川畑から焼酎をもらっただろう」と責め立てられていたそうです。

 口を滑らせたH警部補は意外な行動に出ました。机の上にA4判の紙とボールペンを出し、「山中鶴雄と書け」としつこく求めてきます。書く理由などないので頑として拒みました。

 すると「おまえは志布志署の地域安全モニターを10年もしとるのに、よくもK署長の顔に泥を塗ったな」と言いだしました。私はホテルを経営していることもあって、志布志署にはずっと協力してきたのです。かちんときて、わざと自分の靴の裏をなでて「えー? 泥とか塗っとらんがな」ととぼけたら、H警部補は「その泥じゃなかが」と大いに怒りました。

 ちなみにこのK署長こそが、志布志事件を引き起こした捜査陣の指揮官です。公判が進むにつれ、K署長と直近のI警部、その部下のH警部補の3人がいかに強引な捜査をしたかが明らかになるのですが、それはいずれお話しします。

 暗くなってもH警部補の詰問は続きます。私と親しい刑事が私のせいで格下げになったとか、出任せの話ばかり…。私はしみじみと思いました。

 「こちらがいくら真実の説明をしても、ばか呼ばわりして怒鳴る…。刑事っちゃ国民の味方どころか、弱かもんの敵じゃなかか」

 この日の取り調べも午後11時まで。もう心も体もぼろぼろです。翌日、この取調室で、忌まわしい「踏み字」事件が起きるのです。 (聞き手 鶴丸哲雄)

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