【DCの街角から】原爆論争のバランス

西日本新聞 夕刊 田中 伸幸

 「見学者が多くて驚いた。でも、お祭りみたいな雰囲気には違和感を覚える」

 1945年7月、史上初の核実験が行われた西部ニューメキシコ州。砂漠にある実験場の爆心地が今月初旬、一般公開された。その模様は21日付本紙「特派員リポート」で詳しく報じたが、参加者の中には青空の下、ピクニック気分で楽しそうな若者や家族連れが散見され、日本人としては強い違和感があった。そんな中で一組の若いカップルが冒頭のような感想を語った。少し救われた気がした。

 私が日本人と知り、気を使ったのかもしれない。他の見学者や地元の住民からも「子どものころ『核攻撃があったら机の下に隠れろ』と教わったが、そんなことで身を守れるはずもない。核兵器を使ったことはとても悲しい歴史だ」などと被爆者に同情する声を多く聞いた。

 被爆国日本への配慮とも受け取れる姿勢は核の歴史を伝える博物館でも感じた。州最大の都市アルバカーキにある原子力博物館では、原爆投下の説明パネルに「戦争を迅速に終わらせ、米国人と日本人の命を救うためだった」と正当化する意見と「市民を無差別に殺したのは非人道的だ」などの反対意見を併記。賛否両論のバランスを取ろうとする意識がうかがえた。

 原爆開発の「マンハッタン計画」が進められた同州のロスアラモスにある歴史博物館では、きのこ雲をあしらったグッズの取り扱いを中止。展示内容も適宜、見直すという。担当者のリドンドーさん(39)は「『戦争を終わらせた原爆を誇る展示にすべきだ』との意見は根強い。議論は尽きないが、中立的な視点を保ちたい」と説明した。

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 とはいえ、日本ではさまざまな角度から繰り返し語られる核の恐ろしさを伝える展示は少ない。そう指摘すると、ある博物館の職員は「確かにそうだが、原爆の使用に至った背景について、日本ではあまり伝えられていないのではないか」と逆に疑問を呈された。

 ロスアラモスの原爆研究開発施設などは2015年に国立歴史公園に指定され、数年後には原爆の非人道性を伝える場にもなると、日本では報じられている。だがこの点をリドンドーさんら関係者に尋ねると「非常に微妙な問題で正式には決まっていない」と歯切れが悪かった。

 核を巡るニューメキシコでの取材では、日米の原爆に対する認識の溝の大きさを実感したが、正当化論に偏らずに被爆者の声にも耳を傾けようという人が少なからずいることも知った。

 来年は原爆投下、そして終戦から75年。戦勝国の米国はお祭りムードに包まれるかもしれない。だが日米両国の人々が核問題に改めて向き合う年にすべきだ。そんな思いを新たにした。 (田中伸幸)

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