【動画あり】活字の味わいインキの香り 活版印刷職人、福岡市の山田善之さん

西日本新聞 ふくおか都市圏版

 壁一面に所狭しと並ぶ文字、文字、文字…。目を凝らすと、サイズや書体がわずかに異なる鉛製の活字だった。インキの匂いが漂う作業場で、金属の版(組み版)と手押しの印刷機を使った昔ながらの活版印刷に取り組む職人がいる。福岡市の城南区役所そばで印刷所「文林堂」を営む山田善之さん(78)。パソコンのキーを押せば誰でも簡単にきれいな文字が印刷できる時代に、独特の風合い漂う活版印刷の魅力を伝えようと奔走している。

 山田さんは10歳から家業の活版印刷所を手伝ってきた。高校を卒業して地元の印刷会社に就職した頃、業界全体が現在のオフセット印刷への転換期を迎えていた。独立して文林堂を立ち上げたのは10年後の1972年。オフセット印刷工場を開設し、20人以上の従業員を雇うまでに成長。一方で「時代遅れ」の活版設備は大半を廃棄していた。

 バブル崩壊後、印刷業界の価格競争や出版不況にさらされ、設備や人員を縮小した。生計を立てることに必死になる半面、「本当にやるべきなのは、活字文化の原点である活版印刷を守ることではないか」。そんな思いを強めていく。

 人づてに倉庫に眠っていた活字や道具を譲り受けるなどして、2006年に夫婦2人で活版印刷を再開。身近な印刷関係者らに声を掛け、月に数回、活版談議に花を咲かせる「カッパン倶楽部」の活動を始めた。

 「この作業場でインキの匂いに触れ、子どもの頃、郵便受けから新聞を取り出した時の思い出を懐かしむ人もいた」

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 膨大な活字から必要な字を一つずつ選び(文選)、組み版やひもで組んで固定し(植字)、印刷機に据える。レバーを押し下げると、白紙に文字が刻まれる。活版印刷の工程は全てが手作業で、一つとして全く同じには写らない。

 「今の印刷にない、文字の微妙なくぼみや、かすれ具合がいとおしい。活版印刷を知らずに過ごしてきた人にも、この職人の息づかいが感じられるはずだ」

 活版印刷ならではの味わいを、いかにして次の世代に伝えていけるか。模索する日が続いている。 (写真と文・宮下雅太郎)

【写真特集】活版印刷

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