海自艦中東派遣 なし崩しの懸念は拭えぬ

西日本新聞 オピニオン面

 イランを中心とする中東情勢の悪化を受けて、政府は自衛隊派遣の検討に入った。実力組織である自衛隊の海外派遣は慎重の上にも慎重な検討が必要だ。妥当性について事前に国会での十分な議論を求めたい。

 政府は、イエメン沖アデン湾で海賊対処活動をしている海上自衛隊の護衛艦や哨戒機の転用に加え、新たな護衛艦の派遣を想定している。

 活動海域はアラビア半島沖を挙げ、イランに面したペルシャ湾や原油輸送の要衝であるホルムズ海峡を含むかどうかは明らかにしていない。これは対立が続く米国とイランの双方に配慮したものだろう。

 トランプ米大統領は「自国の船は自分で守るべきだ」と主張し、関係国に米国主導の「有志連合」への参加を呼び掛けている。ただ有志連合への参加は、日本の友好国イランにとっては敵対行為になりかねない。有志連合への参加の見送り自体は当然としても、自衛隊派遣の妥当性はまた別の問題である。

 派遣目的を政府は「日本船舶の安全確保」としている。確かに、輸入原油の9割近くを中東に依存する日本にとり、この海域の安全確保は不可欠だ。6月に日本企業のタンカーがホルムズ海峡付近で何者かに攻撃されたが、その後、日本船舶に対する同種事件は起きていない。政府も「直ちにわが国に関係する船舶の防護を実施する状況にはない」との認識を示している。現時点で派遣の必要性は乏しいと言わざるを得ない。

 何より問題なのは派遣の根拠を防衛省設置法の「調査・研究」に置いている点だ。武器使用は正当防衛などに限られるが、国会承認が不要な上、政府の裁量で幅広い解釈が可能になる。自衛隊活動のなし崩し的な拡大がかねて懸念されてきた。

 政府は、日本船舶への攻撃など不測の事態には、自衛隊法に基づく「海上警備行動」に切り替える可能性を示している。その場合も武器使用は警察権の範囲に限定されるが、偶発的な衝突に巻き込まれる恐れは排除できない。

 こうした重大事案にもかかわらず「調査・研究」を根拠に海外派遣を決めるのは姑息(こそく)だ。与党内にも慎重論はある。まずは政府が国会への説明を尽くすべきだ。国会にも歯止めなき派遣とならぬよう監視を求めたい。

 日本は長年の努力で中東と信頼関係を築いてきた。その財産を生かしてイランと米国の仲介の役割を果たすのが本筋だ。そもそもトランプ氏がイラン核合意から一方的に離脱したことが緊張の発端である。イランに自制を促し、米国には合意復帰を働き掛けることが先決だ。

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