ノーベル賞追い風に研究加速 岡田重人氏

西日本新聞

◆リチウムイオン電池

 本年度のノーベル化学賞はテキサス大のジョン・グッドイナフ教授、ニューヨーク州立大のマイケル・スタンリー・ウィッティンガム特別教授とともに、リチウムイオン電池の基本特許の筆頭著者で「リチウムイオン電池の父」と称される吉野彰旭化成名誉フェローに決まった。吉野先生と共同研究する機会があったご縁で、2015年より九州大エネルギー基盤技術国際教育研究センター客員教授として度々手弁当で来学いただき、学生への講義や留学生、若手研究者向けの講演をお願いしていた。受賞の瞬間、院生室からも大歓声が上がった。

 わが国は130年前の屋井先蔵の乾電池に始まり、ニッカド電池、ニッケル水素電池、ナトリウム硫黄電池と様々(さまざま)な蓄電池を世界に先駆けて市販化するなど、蓄電技術をお家芸にしてきた。リチウムイオン電池の実用化における吉野先生の業績、特に(1)LiCoO2正極と炭素負極からなるLiイオン電池構成(2)アルミ製集電体(3)ポリエチレン製微多孔膜による高温時電流遮断シャットダウン機構(4)電流と温度の両方に感応するPTCスイッチング素子による電池安全機構‐に関する一連の特許は、わが国に多大な知財収入をもたらしただけでなく、リチウムイオン電池が誰の発明かという議論における有力な絶対的証拠資料として国内外のアカデミアの世界にも認知された点で感慨深い。

 28年前、吉野特許を基にソニー・エナジー・テックより市販化されたリチウムイオン電池は、同時期に登場した携帯電話の普及になくてはならないキーデバイスとして今日のモバイル社会の到来をもたらし、ライフスタイルを一変させた。福島原発事故の翌年、わが国を覆った電力不足、外貨不足、雇用不足等々の閉塞(へいそく)状況を打破すべく、経済産業省にて蓄電池戦略2012が策定され、リチウムイオン電池が電気自動車の性能を左右するキラーデバイスとして、その存在価値を高めている。リチウムイオン電池の主戦場がエネルギー密度重視の小型携帯機器から経済性・安全性重視の電気自動車向け大型蓄電池にシフトしつつある中、平成時代の電子立国に代わり、令和時代、蓄電立国日本の存在感が高まったことを一日本人として喜ぶとともに、この慶事が、ポストリチウムイオン電池を世に出す追い風になるよう期待している。

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 岡田 重人(おかだ・しげと)九州大先導物質化学研究所教授  1957年生まれ、香川県出身、博士(理学)。専門は電気化学、無機化学。2019年より電池技術委員会委員長。産学官連携功労者表彰文部科学大臣賞など国内外で受賞多数。

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