旅と若者と「歩き方」

西日本新聞 オピニオン面

 旅行ガイドブック「地球の歩き方」(ダイヤモンド・ビッグ社)が創刊されて、今年で40年になる。

 個人旅行者向けガイドブックの定番中の定番だ。パックツアー以外で海外を旅した人なら、一度はこの本を手に宿を探した経験があるのではないか。

 お任せの団体旅行から自分で動く個人旅行へ、日本人の旅のあり方を変えた本と言っても過言ではない。大きな荷物を背負って旅する「バックパッカー」の若者たちの指南書だった。

 「歩き方」が創刊された1979年、日本人の海外渡航者数(出国人数)は404万人。それが2018年には過去最高の1895万人にまで増加している。

 創刊当時の「歩き方」は「ヨーロッパ編」と「アメリカ編」の2タイトルだけだった。現在ではさまざまな国、地域や都市別に119タイトルをそろえる。女性向けやリゾートなど別シリーズも合わせれば380タイトルに及ぶ。日本人の旅の行き先や目的の多様化を端的に示す数字だ。

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 古くは小田実の「何でも見てやろう」、90年代には芸人コンビ猿岩石の大ブームもあって「旅は若者の特権」のイメージが強い。ただ、最近ではそこに異変が起きているらしい。

 ダイヤモンド・ビッグ社地球の歩き方事業本部の奥健(おくたけし)部長は「2000年代ごろから、男子(若い男性)が海外に行かない傾向が目立つようになった」と指摘する。

 確かに法務省統計の年齢・男女別日本人出国者数(18年)を見ると、25~29歳の女性の出国者が98万人なのに対し、同年齢の男性は67万人。全体数では男性の方が女性より約2割多いが、10~29歳の年齢層で女性が男性を上回る。「女子の方が好奇心が強いし積極性もあるのが現状です」

 男子が海外に行かない理由は-。「自分の知らないものに触れようとしないのか、面倒なのか…。まあ、怖がりなんでしょう。将来の不安があって海外旅行どころじゃない、という意識もあるかもしれない」と奥氏は分析する。

 「旅に出ない男子に言いたいことは」と聞くと、奥氏は「言うとオヤジになっちゃうから」と苦笑しながら「ユーチューブ(動画投稿サイト)で見るのが『体験』だろうか。現地に立って風、湿度、匂い、言葉-そうしたものを感じるのが体験」と語ってくれた。

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 奥氏が挙げた「ユーチューブではわからないもの」に、私は「トラブル」と「不安」を付け加えたい。

 個人旅行というのはどんなに順調にいっても小さなトラブルの連続だ。空港で荷物が出てこない、バスに乗り間違えた、怪しげな人物が声を掛けてきた-。それをどう乗り切るのか。

 「不安」も旅の大事な要素だ。言葉のわからない街に一人。日はもう暮れた。泊まる場所がまだ決まっていない。この解放感と裏腹の心細さは、パソコンの前にいても味わえない。「広い世界とちっぽけな自分」を知るだけでも、遠い所に来た意味がある。

 いかんいかん、私もオヤジモード全開である。

 若い人には若い人の「行かない事情」があるのだろう。それでも私は、若者に旅に出てほしいと思う。余計なお世話、と言われるのは百も承知の上で。
 (特別論説委員)

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