「ビルマ戦補充兵」を読み解く ビルマ戦記を追う<4>

西日本新聞 文化面

 戦記と呼ばれるもののひとつの類型として「出征から復員まで」が挙げられる。「入営から終戦まで」「戦地入りから終戦まで」も同じ類型に入れることができる。

 これらは言うまでもなく個人の体験記である。戦後に生活を取り戻し、自分の戦争体験を残しておきたいと奮起した方が資料などで裏付けを取りつつ書いたものが多い。吉田悟氏の「ビルマ戦補充兵」はその典型的な一冊である。

 この類型の良いところは、足跡を一本の線として歴史の中に引けることである。時間と場所が割合はっきりしている。ビルマに入った時期ひとつとっても本書は昭和十九年六月二十日と明記している。記憶や資料には間違いが避けられないので鵜呑(うの)みにはできないが、小説を書く人間にとっては参考として実にありがたい。ちなみに吉田氏の場合、内地からビルマまで一カ月かかっている。

 個人の感覚や主観といった要素はさらにありがたい。当時の首都であるラングーン(ヤンゴン)では「バナナの葉っぱに包んだ餅」が露店で売られていたという。これを吉田氏は「ちまきのような餅」と表現している。その実物はともかく、ひとりの日本人の目にどう映ったかがよく分かる。日本兵に売れる食べ物としてビルマ人に認識されていたこともうかがい知れる。

 教科書も予備知識もない。兵隊たちはこうした日々の積み重ねをもってビルマを学んでいった。ゆえに耳で覚えた現地語にも差異が見られる。一例として飛行機を挙げれば「レイミヤン」「レンビヤン」「レンミャン」といった具合である。同様の差異はむろん地名や人名にもおよぶ。

 戦後生まれの人間から見たあの戦争は歴史である。ともすれば認識の個人差が見落とされてしまう。だからこそ「ビルマ戦補充兵」のようなミクロ視点の戦記には大きな価値があると私は思う。 (こどころ・せいじ、作家)

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古処誠二(こどころ・せいじ) 1970年生まれ。高校卒業後、自衛隊勤務などを経て、2000年に「UNKNOWN」でメフィスト賞を受賞しデビュー。2千冊もの戦記を読み込み、戦後生まれながら個人の視点を重視したリアルな戦争を描く。インパール作戦前のビルマを舞台にした「いくさの底」で毎日出版文化賞と日本推理作家協会賞をダブル受賞。直木賞にも3度ノミネートされている。

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