「わだちの跡」を読み解く ビルマ戦記を追う<6>

西日本新聞 文化面

 タイトルからは内容を想像しにくいが、独立自動車第百一大隊編集委員会の手にかかる立派な部隊史である。

 こうした戦記は、ほぼ寄稿により構成されている。所属していた人々が自身の記憶を持ち寄っているわけである。複数の証言で特定の場所等を知り得るという点で大変ありがたい。「整備班員のあと追ひ日誌」「挺進(ていしん)輸送隊」「自動車部隊の死闘」等、寄稿タイトルをいくつか拾えば雰囲気は感じ取ってもらえるだろう。インパール作戦においては同作戦を取材中の火野葦平氏を見たとの記述も出てくる。戦友会で話題になりそうなエピソードの並ぶことが特徴と言える。

 名前から知れる通り独立自動車第百一大隊の任務は人と物の輸送である。その代表的な苦労として空襲対策を外すことはできない。

 トラックの走行が可能な道路には敵機が頻繁に飛来した。爆音を聞くと同時にトラックはジャングルへ退避せねばならない。しかし、タイヤやエンジンのそれをはじめとする騒音の中では限界がある。車体にはできる限りの偽装が施され、枝などの交換は兵隊の日課のひとつだった。道路はどこも未舗装で、雨期には泥濘(でいねい)と化す。揺れ続ける車体に部品は破損を繰り返す。タイヤに巻かれたチェーンはときに切れる。それでも日中はまだいい。敵機の飛来は夜間にも見られ、トラックは無灯火走行も行った。

 まったく神経のすり減る日々である。

 悲しいことに、その苦労が報われることはなかった。復員したとたん子供に石を投げられたとの寄稿がある。独立自動車第百一大隊の将兵が帰国した昭和二十一年、日本軍はすでに蔑視されていた。おまけに同隊のような存在は戦史ではまず取り上げられない。本書も非売品であって、私が所有しているのは関係者に贈呈された一冊である。持ち主が亡くなったことで遺族が古書店に売却したものと思われる。 (こどころ・せいじ、作家)

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古処誠二(こどころ・せいじ) 1970年生まれ。高校卒業後、自衛隊勤務などを経て、2000年に「UNKNOWN」でメフィスト賞を受賞しデビュー。2千冊もの戦記を読み込み、戦後生まれながら個人の視点を重視したリアルな戦争を描く。インパール作戦前のビルマを舞台にした「いくさの底」で毎日出版文化賞と日本推理作家協会賞をダブル受賞。直木賞にも3度ノミネートされている。

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