苦しむ有床診療所 10年で4割減 低い診療報酬人材難も 入院できるかかりつけ医どう守る

西日本新聞 医療面 山下 真

 地域に根差した「かかりつけ医」として利用される有床診療所(有床診)の苦境が深刻だ。医師の高齢化や後継者不足を背景に廃業したり、入院設備をなくしたりする施設が相次ぎ、その数は10年で4割減。初期診療からみとりまで多様な医療ニーズに対応し、高齢がん患者の受け皿として存在感を増す半面、3割超が赤字経営というデータもある。医師たちは「このままでは地域医療は成り立たない」と危ぶむ。

 熊本県荒尾市にある有床診、西原クリニック(中村光成院長)。高齢化率35%の同市で、生活習慣病やヘルニア、がんの緩和ケアなど幅広い診療に当たる。19床のベッドは60~90代の患者で埋まり、4割ががんを患う。入院期間は数カ月から2年以上。

 「食事はおいしいし、看護師さんも親切。居心地がいいんですよ」。病室を訪ねると、入院中の女性(84)が笑顔を見せた。末期がんの女性は積極的な治療を望まず、昨年10月に急性期病院から転院してきた。膝が悪くて1人暮らしの自宅には戻れない。遠方に住む子どもとの同居は難しく、近くに住む妹や弟も高齢だ。受け入れ先が見つからなかった女性はようやくここに落ち着いた。

 同クリニックは「家族開放病床」を掲げ、夜間・休日も家族の面会は自由。家族が出勤前後に立ち寄って食事を共にしたり、食事を介助したりする。ほとんどのスタッフが家族と顔見知りで、小規模ならではの融通の利くケアが可能だ。高森豊子看護師長(60)は「住み慣れた地域で過ごしたいという希望を尊重し、最期まで寄り添いたい」。

 看護師、看護助手は計22人。夜間は看護師と看護助手各1人で対応する。きめ細かいケアにはぎりぎりの人員だ。「増やそうにも地方は医療人材が集まりにくく、経営負担も大きい」。中村院長は漏らす。

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 有床診は全国的に減り続けている。厚生労働省の医療施設動態調査によると、7月末で6681施設。2009年(1万1072施設)に比べ、4391施設も減った。

 「医師が高齢化し、後継ぎもなかなか見つからない」。全国有床診療所連絡協議会(事務局・福岡市)の鹿子生(かこう)健一会長は頭を抱える。有床診の院長は約4割が70歳以上だが、親子間の継承が進まず、廃業に歯止めがかからない。

 背景にあるのが、診療報酬の低さだ。有床診の入院基本料は入院31日以上、看護師7人以上の場合で1日6040円。急性期病院は看護師数や在院日数によるが、1日1万6500円と差は大きい。

 日本医師会総合政策研究機構(日医総研)が17年に実施した調査によると、人件費や医薬品などのコストを踏まえると、入院患者1人当たり1日1866円の赤字になる。「多くの有床診は入院部門の赤字を外来部門で補ってきた。最近は人口減で外来患者も減っている」と鹿子生会長。日医総研の調査では、法人経営の有床診の32・5%が赤字に陥っている。

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 地域の身近な医療機関として、役割を見直す動きも出てきた。

 国は、団塊世代が75歳以上となる25年に向けて、高齢者が住み慣れた地域で医療、介護、生活支援などを受けられる「地域包括ケアシステム」の構築をうたい、医療拠点の一つとして有床診に期待を寄せる。昨年4月には病床設置の手続き要件を緩和、新規開業を促す。都道府県には「地域で緊急時に対応できる入院医療を確保」する施設としての活用を呼び掛けている。

 ただ、苦境を打開する決定打は見当たらない。高橋紘士(ひろし)東京通信大教授(地域ケア論)は「有床診にはお年寄りをみとったり、病院から早期退院を促された患者を受け入れたりする『地域ベッド』としての機能がある。単に開業医の継承問題とせず、地域資源としてどう活用するかを、住民も含めて議論する時期に来ている」と指摘した。

 (山下真)

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 【ワードBOX】有床診療所

 19床以下のベッドを備え、通院も入院もできる小規模な診療所。入院設備のない無床診療所や20床以上の病院と区別される。2013年10月、福岡市博多区の有床診療所で入院患者ら10人が死亡する火災が発生。スプリンクラー未設置だったことが被害拡大を招いたとの指摘もあったため、国は16年4月に有床診療所のスプリンクラー設置を義務化。25年6月までの猶予期間や設置費の補助制度を設けているが、設置費用が賄えずに無床化する診療所も多い。

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