感情知能(EQ) 自己肯定感を育む「心の筋トレ」

西日本新聞

 日本の子どもは自己肯定感が低いと言われる。勉強や運動が優れていてもどこか自信が持てない。頑張っても結果が伴わずに自分はだめな人間だと思い込む。多くの人に経験があると思う。ただ、その延長で不登校やいじめ、暴力行為が誘発されるとなると事態は深刻だ。教育現場で今、心の知能指数ともいわれる感情知能(EQ)を見直す動きが広がっている。

 親子で向き合い輪になった片隅で、1人の女の子が突然涙を見せた。うつむいたまま言葉が出ない。近くの大人が「うれしかったの?」と優しく尋ねると、こくりとうなずいた。

 10月上旬、北九州市の西小倉小であった親子ふれあい学習。2年生を対象にした特別授業のテーマは「心の筋トレ」で、さまざまなゲームを通じて気持ちを形にする取り組みだ。

 「感情知能は自分や他人の感情と向き合うことのできる能力。それは伸ばすことができます」。保護者の一人で、講師を務めた「BoostEQ(ブーステック)はばたこ」代表の石橋芳子さんは強調する。

 授業では照れや悪ふざけを排除するためのステップが用意された。まずは赤、青、黄などの色紙の中から気になる色を選ばせる。次に靴下を脱いだり、髪をまとめたりして互いの変化を探るゲーム、そして子どもが親の背中をさすり、親は子どもを抱きしめる体の触れ合いへと続く。

 女の子が泣いたのは授業の後半。隣の親子と4人グループを作り「聴く、褒める、伝える」ことを心掛けて、親が子ども自慢を始めたときだ。「手伝いをよくしてくれる」「どんなことにも前向きで、お母さんの宝物です」…

 気持ちを扱えるスキル 

授業後、子どもたちが見せた笑顔に保護者の一人は「普段から気持ちを伝え合うことの大切さが改めて分かった」と話した。

 近年、感情知能が注目される背景には子どもの危機的な現状がある。学校でキレたり、暴力的になったりする子が目立つ一方、いじめや不登校も増え続ける。

 文部科学省が公表した2018年度のデータで、小中高校における暴力行為は7万2940件。前年度(6万3325件)より約1万件増えた。このうち3万6536件と半数を占める小学校は13年度(1万896件)の3倍以上。いじめの認知件数も約8割は小学校で、文科省も「憂慮すべき状況」と危機感を抱く。

 現場で多発する問題行動に本質的な解決法はないのか。対策の一つとして打ち出されたのが、形骸化が指摘されてきた小中学校での道徳教育の教科化だ。

 「善悪の判断」「自主自立」「思いやり」「生命尊重」「郷土愛」などと項目を具体化。教科化により指導法も統一された。ただ、教師による価値観の押し付けといった課題はなお残り、効果に疑問の声もある。

 「大人にこそ必要」

 中学、高校を米国で過ごした石橋さんは、欧米人の自己肯定感の高さに触れてきた。当時は文化の違い程度にしか感じていなかったが、個人の尊重など感情知能を高める教育の浸透が大きいことを後に知った。

 「米国の学校には今も世界中から教育関係者が集まり、議論を重ねている。子どものため時代の変化に対応すべく前を向いている」

 石橋さんが感情知能に携わるようになったきっかけは、かつて開いていた英語教室での女子小学生との出会いだ。将来、飼育員になりたいと語った彼女の理由は、積極的な「なりたい」ではなく、動物が好きとかでもなかった。

 彼女の姿や考えを通し、子どもの現実に触れた気がした。その後、彼女を何とか変えたいと、事あるごとに褒め、励ました。結果、学ぶ楽しさが表情に表れるようになり、総じて学力も上がったという。

 この体験などから感情知能の重要性を痛感。専門知識を学ぶために渡米し、研修を経て各地で講演活動などをするようになった。

 国内では児童虐待も年々増加している。石橋さんは「感情知能は教えるものではなく育むもの。子どもの成長を手助けする大人にこそ、感情を上手に扱える知識とスキルが求められる」。(前田英男)

◆感情知能(EQ) 自分の感情を正しく認識してコントロールするとともに、他人の感情を適切に読み取って対応できる力とされる。「情動知能」「心の知能指数」とも呼ばれる。EQの高い人はプラス思考で問題処理能力があり、創造性、協調性なども高いとされている。現在では教育現場にとどまらず、企業や自治体での人材育成などに広く取り入れられるようになっている。

 

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