【W杯「ワンチーム」】 徳増 浩司さん

西日本新聞 オピニオン面

◆国民と共に世界を魅了

 日本全土に感動と興奮をもたらしてきたラグビーワールドカップ(W杯)日本大会もいよいよ大詰めを迎える。国際統括団体ワールドラグビーのビル・ボーモント会長は、アジアで初開催となった今大会の盛り上がりについて、「世界中でこれほどの多くのファンを巻き込んだという点でも、これまでのベストの大会」と表明した。国内外から多大な共感を呼んでいる理由に思いを巡らせてみた。

 「この映像を見てください。私たちには、もう何も言葉が出てきません」-。開幕直前、ウェールズラグビー協会は、自らのサイトでこう発信した。

 北九州市で行われたウェールズ代表の公開練習での出来事だった。ミクニワールドスタジアム北九州に、1万5千人を超える市民が集まり、ウェールズが国際試合の前に斉唱する「ナショナル・アンセム」を合唱し、選手たちを心から歓迎したのだ。海外メディアも、W杯取材で最初の驚き体験になったようで、世界中に伝えられた。

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 大会が始まってからも、多くのスタジアムで、サポーターたちが、出場両国の国歌を歌った。W杯の大会史上初めてのことだ。英国紙ガーディアンの記者は「この国のおもてなし精神とは、ゲストを喜ばすためには、全力どころか、それ以上を尽くすことなのだ」と称賛した。

 サポーター同士が国籍を超えて交流・交歓する姿も、列島各地で見られた。相手チームに敬意を表する「ノーサイド精神」は試合会場を越え、街で、駅で、ファンゾーンで、試合前も、試合後も、仲間をつくり続けた。スポーツ界を覆っていた勝利至上主義、勝敗がすべてという重苦しい雰囲気をさわやかに吹き飛ばしてくれたように感じた。

 試合終了後に、両チーム選手たちが観客に向かっておじぎをする姿も印象的だ。ボーモント会長は「想像を超える歓待をしてくださった日本のみなさんに対する感謝の気持ちが、自然に表れているのではないか」と指摘した。

 組織委員会は、アジアラグビーに加盟する26カ国から計74人の子どもたちと指導者を大会の開幕戦に招待し、アジア初のW杯を観戦してもらった。また、外務省も、東南アジアから160人の子どもたちを招待するなど、新たな地平を切り開く活動が多彩に展開された。

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 なによりも私たち日本人、いや世界中のファンの心を動かしたのは、日本代表のひたむきなプレーと「ワンチーム」精神だ。七つの国籍からなる代表31人は、その創造的かつ果敢な戦いぶりで、ラグビーに関心のなかった層までを魅了した。「もっともっと日本代表のプレーを見たい」という声が相次いだ。

 こうしたことを重ねると、ラグビーの持つ価値観が、スポーツの本来あるべき姿を体現して日本人の琴線に触れたからこそ、今大会は爆発的な支持を得ているのではないか、と思い至った。

 私たち日本人には、相手を尊敬し、自分を犠牲にしてまで仲間を生かそうとする精神が脈打っている。だが、それを世界に示す機会が少なかった。今回のW杯では、その日本人の大切なスピリットが、来日した方々との交流の中で呼び覚まされ、世界に発信することができたといえよう。

 街や、地域や、市民が「ワンチーム」になって大会に向かっていく、この共通体験は、今後何年も、いろいろな形で語り継がれるべきレガシー(遺産)となるに違いない。スポーツの国際大会が、単なるスポーツの世界にとどまらず、私たちの生き方に強烈なメッセージを与えてくれた。日本が世界を感動させたスピリットを大切にしたい。

 【略歴】1952年、和歌山県生まれ。国際基督教大(ICU)卒、新聞記者を経て英カーディフ教育大留学。帰国後、茗渓学園高ラグビー部を率い全国優勝。95年から日本ラグビーフットボール協会勤務。アジアラグビー会長を経て同名誉会長。

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